交通事故による【麻痺】と後遺障害について
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
この記事でわかること
交通事故によって起こり得る麻痺とは、外傷が原因で神経に障害が残り、筋肉の硬直や弛緩等により、思い通りに体を動かせなくなったり、知覚が鈍くなったりする身体機能の障害をいいます。交通事故による麻痺の原因には、「外傷性脳損傷」と「脊髄損傷」の2種類があります。 ここでは、交通事故による麻痺の原因や、麻痺の種類などを解説していきます。
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目次
交通事故による麻痺の原因
外傷性脳損傷による麻痺
外傷性脳損傷による麻痺は、主に随意運動(自らの意思で動かすこと)を制御している前頭葉の後部等が損傷を受けることにより生じます。 右の前頭葉後部を損傷すれば身体の左側に、左の前頭葉後部を損傷すれば身体の右側に、両方を損傷すれば両側に麻痺が生じます。交通事故の衝撃で頭部に強い力が加わったときに外傷性脳損傷が起こり、麻痺が生じるおそれがあります。
脊髄損傷による麻痺
脊髄損傷による麻痺は、背骨の中にある、脳と末梢神経管との信号を伝達する中枢神経が傷つくことにより生じます。脊髄損傷により、脳からの末梢神経への信号が途中で阻害されるからです。 脊髄は、脊椎(背骨)の中にあります。脊椎とは、上から、頚椎(7椎、まれに8椎)、胸椎(12椎)、腰椎(5椎)、仙椎(5椎)、尾椎(3椎~6椎)で構成されている骨です。 そのため、例えば、交通事故により脊椎に損傷を負ってしまった場合等、脊椎の中の脊髄にまで損傷が及んでしまったようなときに、麻痺が生じます。 交通事故の衝撃で背骨や首の骨が折れることで脊髄損傷が起こり、麻痺が生じるおそれがあります。
しびれとまひの違い
しびれと麻痺はどのように違うのでしょうか。
しびれとは、体のどこかにビリビリとした異常な感覚が生じ、力が入りにくくなる症状です。
これに対して麻痺とは、体を動かそうと思っても思い通りに動かせない、または知覚機能がなくなる症状です。
しびれも麻痺も、どちらも体性神経の障害ですが、しびれは主に感覚神経(知覚機能に関する神経)の障害により生じ、麻痺は主に運動神経(運動機能に関する神経)の障害によって生じるという違いがあります。
本ページでは麻痺について解説しますので、むちうちによって生じるしびれの症状については以下の記事をご覧ください。
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麻痺の種類
麻痺が生じた部位によって、種類が分けられます。さらに、麻痺の状態でも分けられることもあります。以下では、麻痺の状態別による完全麻痺、不全麻痺についてみていきます。
完全麻痺
神経伝達機能が完全に絶たれ、対象部位の運動機能がすべて失われる麻痺をいいます。骨格筋の随意運動が完全にできなくなるため、自分の意思で動かすことができなくなります。また、知覚機能も失われる場合があります。後述の不全麻痺と比べて、重い麻痺といえます。
不全麻痺
神経伝達機能の一部が絶たれ、対象部位の運動機能が部分的に失われる麻痺をいいます。困難ではあるものの、自分の意思で、麻痺の症状のある腕や足をある程度動かすことができます。また、感覚機能が鈍くなる場合もあります。
麻痺の箇所
交通事故による損傷部位によって、麻痺の症状が起こる箇所は異なります。事故の程度によって、軽度の麻痺のケースも、重度の麻痺のケースも、どちらも起こり得ます。ただし、基本的には損傷した部位より下に麻痺が生じます。次項より、損傷部位と起こり得る麻痺症状について説明していきます。
上半身の麻痺
麻痺は、基本的に損傷した部位より下に起こるという仕組み上、上半身のみに麻痺が生じるケースは少ないです。脊髄の損傷により、両腕、または両足に麻痺が生じる対麻痺は特に少なく、脳の損傷により起こる単麻痺や、脳または脊髄の損傷により起こる片麻痺が上半身に生じる麻痺の多くを占めています。 交通事故と上半身麻痺については以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。
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下半身の麻痺
下半身の麻痺は、胸髄(胸椎内の脊髄)より下の脊髄を損傷した場合に起こることが多く、両側の下肢が思い通りに動かせなくなってしまいます。運動機能障害や知覚機能障害に加え、排泄機能障害等が起こるおそれがあります。 交通事故による下半身麻痺については、以下のページで詳しく解説していますのでご参照ください。
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全身の麻痺
四肢麻痺といい、背骨の最上部にある頚椎部分を損傷した場合に起こるおそれがあります。 四肢への神経伝達に麻痺が生じ、損傷部位より下の部位に、運動機能障害、排泄機能障害、知覚機能障害、消化機能障害、自律神経障害等が発生します。
顔面の麻痺
顔面の麻痺は、顔面神経麻痺といわれ、顔面にある神経核から表情筋までの間に障害があると、表情筋を動かすことができなくなり、顔面が動かなくなる麻痺です。しかし、表情筋は複数あるため麻痺の症状は様々で、口角が上がらなかったり、瞼を閉じることが困難であったり等が起こるおそれがあります。さらに、味覚障害や聴覚障害等といった症状が起こる場合もあります。
麻痺の程度
一口に麻痺と言っても、程度が異なります。麻痺の重さとしては、高度、中程度、軽度に分けられます。また、麻痺の分布に応じて、四肢麻痺、片麻痺、対麻痺、単麻痺に分けられます。以下でみていきましょう。
高度
高度の麻痺とは、物を持ち上げたり、歩行したりすることができない等、ほとんどの基本動作ができない状態を指します。 上肢における高度の麻痺では、以下のような状態が挙げられます。
- 肩、肘、手の三大関節のすべて及び親指から小指のすべての指の全関節を、自分の力ではまったく動かせない、またはそれに近い状態
- 随意運動(自らの意思で動かすこと)に著しい障害があることが原因で、障害を負った腕で物を持ち上げて移動させることができない状態
また、下肢における高度の麻痺は、次のような状態です。
- 股関節、ひざ関節、足関節の三大関節のすべてを、自分の力ではまったく動かせない、またはそれに近い状態
- 随意運動(自らの意思で動かすこと)に著しい障害があることが原因で、障害を負った下肢を支える力と、障害がある下肢を自らの意思で動かす力をほとんど失ったもの
中程度
中程度の麻痺とは、障害のある部分を動かしたり支えたりすることが相当程度できず、上肢においては物を持ち上げて移動させること、下肢においては歩行や立位にかなりの制限がある程度の麻痺をいいます。 具体例としては、
- 麻痺がある側の手では、仕事の際に必要とされる軽量の物(おおむね500g)でも持ち上げることができないもの
- 麻痺がある側の手では、文字を書くことができないもの
- 足に麻痺が残るため、杖もしくは硬性装具がなければ、階段を上ることができないもの
- 両足に麻痺が残るため、杖もしくは硬性装具がなければ、歩行が困難であること
等が挙げられます。
軽度
軽度の麻痺とは、障害のある部位を動かしたり支えたりする能力が少し損なわれ、基本的な日常動作において、上肢では文字を書いたり、物を持ち上げて移動させたりすること、下肢では歩行や立位の際に巧緻性と速度が相当程度損なわれている状態をいいます。 具体例としては、
- 障害を残した手で文字を書くことが難しい場合
- 日常の生活で車椅子や硬性装具などをつけずに独歩できるが、片側の足に麻痺があるため、不安定で転倒しやすく、歩く速度も遅いもの
- 日常の生活で車椅子や硬性装具などを付けずに独歩できるが、両足に麻痺があるため、階段を上がるためには、杖もしくは硬性装具なければ上ることができないもの
等が挙げられます。
参照:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/s1120-10g3.html
四肢麻痺
四肢麻痺とは、両手足すべてに麻痺が生じることをいいます。四肢への神経伝達が麻痺するため、運動機能障害、排泄機能障害、知覚機能障害、消化機能障害、自律神経障害等が発生します。 四肢麻痺は、頚髄(背骨の最上部にある頚椎内の脊髄)の損傷により生じることが多いです。
対麻痺
両腕もしくは両足に麻痺が生じることをいいます。脊髄のうち腰椎や胸椎等を損傷し、神経に障害が残った場合、両足の対麻痺になることがあります。対麻痺は、痙性対麻痺と弛緩性対麻痺とに分類することができ、どちらも運動機能障害、感覚機能障害、自律神経障害等が発生します。
片麻痺
体のどちらかの側の手足に麻痺が生じることをいいます。いわゆる半身不随の状態で、運動麻痺の頻度としては最も多いものとなります。運動機能障害に加え、感覚機能障害、自律神経障害等が発生します。中枢神経(上位運動ニューロン)の障害により起こります。また、まれに頚髄の損傷によって生じることもあります。
単麻痺
片腕または片足に麻痺が生じることをいいます。運動機能障害、感覚機能障害、自律神経障害等が発生します。 基本的に、末梢神経(下位運動ニューロン)の障害により生じます。
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