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交通事故によるPTSDが後遺障害として認定されるために

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

交通事故の体験がこころの傷=トラウマ(心的外傷)となり、深刻化するとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまうことがあります。
精神疾患のひとつであるPTSDは、目に見えるケガではありませんが、後遺障害として認定される可能性があります。
本ページでは、交通事故によるPTSDと後遺障害に着目して、PTSDの症状や、後遺障害等級が認定された場合の慰謝料などを解説していきます。
PTSDが後遺障害として認定されるためのポイントもご紹介しますので、ぜひご参考ください。

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PTSD (心的外傷後ストレス障害) とは

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)とは、命の危険を感じるような衝撃的な体験がトラウマ=心的外傷となって、日常生活や社会生活に支障をきたすストレス障害のことです。
日本語では心的外傷後ストレス障害といいます。
たとえば、自然災害や犯罪被害、そして交通事故などの体験から、時間が経ってからも恐怖を感じ続け、日常生活・社会生活に支障が出るような状態を指します。 PTSDは、同じ体験をしてもPTSDになる人とならない人がいて、PTSDだと気づかない人や、数ヶ月で症状が落ち着く人、衝撃的な体験から数ヶ月が経って症状がはっきりあらわれる人など、さまざまです。

PTSDの原因

PTSDは、衝撃的な体験が原因で発症することがあります。
交通事故でPTSDを発症する原因としては、生命の危険を感じるような事故態様だったり、事故に遭って重大なケガを負ったりした場合が考えられます。
以下、具体例をみてみましょう。

  • 赤信号で停車中に、高速度で追突された
  • 赤信号無視の車両に衝突され、横転した
  • 大型車両と正面衝突して、車が大破した
  • 車両に挟まれ、重症を負った
  • 事故で何度も手術しなければならないような重症を負った など

PTSDの症状

PTSDは、衝撃的な体験からある程度期間が経ってから発症することが多いです。
次のような症状が1ヶ月以上継続する場合は、PTSDの可能性が高いため、すみやかに医療機関を受診しましょう。

フラッシュバック(再体験)

自分の意思に関係なく、ふとした瞬間に突然つらい記憶や、恐怖・苦痛などのさまざまな感情がよみがえってしまう状態です。
大きな音やサイレンなどがきっかけで事故を再体験しているように思い出したり、同じ悪夢を繰り返し見たりすることもあります。

回避行動

つらい記憶を思い出させる物事を避けるようになります。
車に乗ることを避けたり、外出できなくなったりして、日常生活に支障をきたすこともあります。
事故のことを思い出せない、話せないといった症状があらわれることもあります。

認知及び感情の変化

起こった出来事に対して、不必要に自分や他者を責めたり罪悪感を抱いたりするようになります。
また、つらい記憶からこころを守るために感情や感覚がマヒして、楽しいと感じられなくなる・孤独感を感じる・仕事や趣味への興味を失うなどの症状があらわれます。

●過覚醒

常に緊張し、イライラする・ささいなことで驚く・警戒心が強くなるなどの過敏な状態が続くようになります。
そのため、動悸や不安、不眠、集中力の低下といった症状があらわれることがあります。

PTSDの治療方法

PTSDの疑いがある場合、迷わず精神科や心療内科を受診しましょう。
治療方法は、主に精神療法(心理療法)や対症療法が行われます。
うつ病などのほかの精神疾患を併発している場合は、同時にそれらの治療も必要になります。

精神療法(心理療法)

こころの傷を回復するために、つらい記憶と向き合わせたり、ものの見方を整えたりして、PTSDそのものの治療をする方法です。
代表的なものに、持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、眼球運動脱感作療法(EMDR)、グループ療法などがあります。

対症療法

一般的に、薬によって特定の症状を和らげる方法=薬物療法が行われます。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬を中心に、不眠・不安・抑うつ症状などの症状にあわせて、抗不安薬などが用いられます。

交通事故によるPTSDで請求できる後遺障害慰謝料

交通事故に遭われた方は、加害者に対して財産的な損害のほかに、精神的な損害に対して“慰謝料”を請求することができます。
事故によってPTSDを発症した場合、“入通院慰謝料”と“後遺障害慰謝料”の2種類の慰謝料が請求できる可能性があります。

●入通院慰謝料
事故が原因で入通院を強いられたために受けた精神的苦痛に対する金銭的な補償のことです。
事故とPTSDとのあいだに因果関係が認められると、治療期間や実際の入院・通院日数に基づいて慰謝料が支払われます。

●後遺障害慰謝料
事故で後遺障害が残ったために受けた精神的苦痛に対する金銭的な補償のことです。
後遺障害慰謝料を請求するためには、事故によるPTSDが後遺障害等級に認定される必要があります。
次項で詳しくみていきましょう。

後遺障害等級認定の申請方法について、以下ページで詳しく解説しています。
あわせてご参考ください。

PTSDで該当する等級と慰謝料相場

交通事故によるPTSDで後遺障害慰謝料を請求するためには、後遺障害等級認定の申請をして、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。

●後遺障害等級とは?
事故の後遺症が後遺障害の要件を満たす場合に、症状の部位や程度に応じて認定される等級のことです。
1級~14級に区分され、1級に近いほど症状が重くなります。
認定された等級に応じて慰謝料の相場が定められています。

●PTSDで認定される可能性がある後遺障害等級
PTSDで認定される可能性がある等級は、9級、12級、14級のいずれかです。
PTSDの症状が原因で仕事内容に相当な制限があるような場合は、9級10号に該当する可能性があります。

●PTSDの慰謝料相場
PTSDにおける後遺障害慰謝料の相場は、計算に用いる算定基準によっても金額が変わります。
以下、保険会社の提示額に近い“自賠責基準”と、最も高額になる“弁護士基準”で算定した慰謝料を比較してみましょう。

等級 自賠責基準 弁護士基準
9級10号 249万円 690万円
第12級相当 94万円 290万円
第14級相当 32万円 110万円

※自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

PTSDが後遺障害等級認定されるポイント

PTSDについて後遺障害等級認定を得るためのポイントは、
①因果関係の証明
②障害の程度の証明
の2点です。

①因果関係の有無は、事故状況や受傷内容、症状の出現時期、専門医の受診時期により判断されます。
また、②障害の程度は、専門医の治療を受けたかどうか、治療内容、治療期間、担当医のカルテに記載された具体的症状や能力低下の状態などにより判断されます。
後遺障害等級認定は、基本的に書面審査なので、提出する後遺障害診断書や添付資料(検査結果やカルテ等)が非常に重要になります。 この後遺障害等級認定のポイントと、その判断材料について十分に理解したうえで、ご自身に生じた症状についてよく把握し、専門医による適切な治療を相当期間受ける際に、自身の症状をきちんと医師に伝えてカルテや後遺障害診断書を正確に作成してもらうことが大切です。

PTSDの後遺障害認定の現状

PTSDが交通事故の後遺障害認定を受けるのは困難だと言わざるを得ません。
等級認定されたとしても、慰謝料は相場より低額になる傾向にあります。
等級認定が困難な理由、慰謝料が低額になる理由は、次のとおりです。

  • 事故後しばらく経ってからPTSDの症状があらわれることも多く、事故との因果関係が疑われやすい
  • PTSDは長くとも2~3年程度の治療期間を経れば回復する可能性があることから、症状固定の判断がむずかしい
  • 同様の事故を体験してPTSDを発症する人・しない人がいるため、性格・ストレスへの耐性など、被害者自身にある素因がPTSD発症に影響したと主張される(素因減額)

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PTSDで後遺障害等級が認定される基準

交通事故によるPTSDが後遺障害として認められるためには、
①非器質性精神障害の認定基準を満たすこと
②症状の程度が後遺障害等級認定基準を満たすこと
の2つが必要になります。

①非器質性精神障害の認定基準

まず、PTSDが非器質性精神障害に該当するかを確認します。
非器質性精神障害とは、脳に損傷がない精神障害のことで、うつ病もこれに該当します。
具体的には、厚生労働省が通達した労災の障害等級認定基準※2のうち、次の2つの要件を満たす必要があります。※2…平成15年8月8日付厚生労働省労働基準局通達

  • 1. 以下表の「a精神症状」から、ひとつ以上の症状が認められる
  • 2. 以下表の「b能力に関する判断項目」から、ひとつ以上の障害(能力の欠如・低下)が認められる
労災の障害等級認定基準
a 精神症状 b 能力に関する判断項目
①抑うつ状態
②不安の状態
③意欲低下の慢性化した幻覚・妄想性の状態
④記憶または知的能力の障害
⑤その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴等)
①身辺日常生活
②仕事・生活に積極性・関心を持つこと
③通勤・勤務時間の厳守
④普通に作業を持続すること
⑤他人との意思伝達
⑥対人関係・協調性
⑦身辺の安全保持、危機の回避
⑧困難・失敗への対応

②後遺障害等級の認定基準

PTSDが非器質性精神障害に該当する場合、障害の程度に応じて後遺障害の等級が判断されます。
具体的には、就労意欲の状態と、労災の障害等級認定基準「b能力に関する判断項目」の能力低下の状態から、以下表のとおり3段階に区分して認定されます。

後遺障害等級 9級10号

【労災障害認定基準の表現】
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
【障害の程度に応じた認定】
・就労している者又は就労の意欲はあるものの就労はしていない者については、aのうちいずれか1つ以上が認められる場合に、bの判断項目の②~⑧のいずれか1つの能力が失われているもの、または判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
・就労意欲の低下又は欠落により就労していない者については、身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの

後遺障害等級 第12級相当

【労災障害認定基準の表現】
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの
【障害の程度に応じた認定】
・就労している者又は就労の意欲はあるものの就労はしていない者については、aのうちいずれか1つ以上が認められる場合に、bの判断項目の4つ以上について、時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
・就労意欲の低下又は欠落により就労していない者については、身辺日常生活を適切又は概ねできるもの

後遺障害等級 第14級相当

【労災障害認定基準の表現】
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの
【障害の程度に応じた認定】
bの判断項目の1つ以上について、時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの

認定例

事故の体験がトラウマとなり、事故後長期間抑うつ状態が継続し、働くことはできるものの、普通に作業を持続することが困難なため、仕事内容にかなりの制限がかかるようなケースでは、後遺障害9級10号に認定される可能性があります。

PTSDと交通事故との因果関係を立証するためには、医療分野に強い弁護士がおすすめです

PTSDが交通事故の後遺障害として認定されるためには、事故との因果関係を立証しなければなりません。
とはいえ、目に見えるケガと比べると、事故との因果関係を証明するのは容易なことではなく、さまざまな理由のもと慰謝料が減額されやすい傾向にあります。
PTSDと交通事故との因果関係を立証して、適正な慰謝料を受け取るためには、後遺障害等級認定に関する経験があって、医療分野に強い弁護士に相談することをおすすめします。
各種手続や相手方との交渉を弁護士に依頼することで、ご自身は治療に専念することもできます。
弁護士は、被害者の一番の味方となる存在です。
交通事故事案の経験が豊富で、医療問題に強い弁護士が集まる弁護士法人ALGにぜひご相談ください。

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