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交通事故による主婦(主夫)の逸失利益の計算方法

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

逸失利益とは、交通事故がなければ得られていたであろう利益のことをいいます。事故により後遺障害が残ったり、死亡したりしたことで本来得られていた収入(利益)が得られなくなった分を「損害=逸失利益」として請求することができます。 そこで不安に思われるのが、労働の対価として現金収入を得ているわけではない主婦(主夫)の方でしょう。ですが、ご安心ください。主婦(主夫)でも逸失利益は請求できます。 ここでは、【主婦(主夫)の逸失利益】にスポットをあて、認められる条件や計算方法などについて事例を交えつつ解説していきます。ぜひ参考になさってください。

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主婦の逸失利益は認められる?

交通事故によって受け取れる可能性のある逸失利益には、“後遺障害逸失利益”と“死亡逸失利益”があります。

後遺障害逸失利益 被害者に後遺障害が残ったことによる逸失利益です。
事故による後遺障害が残らなければ得られていたであろう利益のことを指します。1級から14級まである後遺障害等級に認定されると、等級に応じた逸失利益を請求しうるようになります。
死亡逸失利益 被害者が死亡したことによる逸失利益です。
事故によって死亡することがなければ、その後も得られていたであろう利益を指します。

※逸失利益は主婦(主夫)にも認められます。
主婦がこなす家事は、他に依頼すれば対価を支払わなければならず、金銭的に評価されるべき労働とみなすことができるからです。裁判例でも認められています(最高裁 昭和49年7月19日 第2小法廷判決)。

主婦(主夫)の逸失利益の基本計算式

専業主婦と兼業主婦とでは計算方法が違います。 また、年齢によっても変わることがあり、特に高齢の主婦(主夫)は特別な計算をすることがあるので注意が必要です。 まずは、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の基本的な計算式をおさえましょう。

後遺障害逸失利益
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数(症状固定時から67歳までの期間)に対応したライプニッツ係数

聞き慣れない専門用語が出てきました。
適正な逸失利益を求めるには、それぞれの用語を理解することが大切ですので、一つずつ取り上げて解説していきます。

基礎収入とは

基礎収入とは、逸失利益を求めるための収入のことで、「年収」をベースにします。 ただし、主婦(主夫)の場合は、収入がないので毎月いくら、昨年はいくらなど収入額を明確にできません。そのため、統一を図るために【症状固定または死亡した年の賃金センサスの全年齢女性労働者の平均賃金】を用いることになっています。 ※賃金センサス:厚生労働省が実施している統計調査に基づいて、性別・年齢別等の平均賃金額が算定されている。

労働能力喪失率とは

労働能力喪失率とは、事故により後遺障害が残ったことで失われた労働能力の程度をさします。 下表のように、後遺障害等級ごとにパーセンテージが決まっているので、「何級に認定されるか」は逸失利益の算定においても重要といえます。

等級別労働能力喪失率
等級 労働能力喪失率
第1級~第3級 100%
第4級 92%
第5級 79%
第6級 67%
第7級 56%
第8級 45%
第9級 35%
第10級 27%
第11級 20%
第12級 14%
第13級 9%
第14級 5%

労働能力喪失期間とは

労働能力喪失期間とは、事故により残った後遺障害のため労働能力が失われた期間のことです。 導き方としては、【就労が可能とされる年齢=67歳】から【症状固定と診断された日の年齢】を引き算します。例えば、症状固定したのが30歳とすれば3750歳とすれば17ということです。 なお、被害者が症状固定時から67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなるものまたはその付近の年齢であれば、【平均余命の2分の1】とされる場合もあります。 なお、障害の程度や部位、年齢、職業、地位といったさまざまな観点から、労働能力喪失期間が調整されるケースもあることに注意が必要です。例えば、むちうちで14級に認定された場合には、年齢に関係なく5年程度、12級の場合は10年程度に制限されることが一般的です。

ライプニッツ係数とは

ライプニッツ係数とは、将来得られるはずのお金を“今”まとめて受け取ることで発生する利息を控除するための係数です。ライプニッツ係数を使っていわゆる中間利息控除を行います。 将来受け取るお金を“今”受け取ることで、銀行に預けておくと利子がつきますし、運用すれば増やすこともできます。そのため、運用益を差引かないと、被害者が取得するべき以上の価値を被害者が受け取ってしまうことになるため、利息を控除することで調整するのです。

生活費控除について

生活費控除とは、事故での死亡後、被害者の生活費がかからなくなるため、逸失利益からその分を差し引き、調整することをいいます。 下表のように被害者の家庭内の役割、属性によって控除率が変わり、主婦(主夫)の場合には30%とされるケースが一般的です。

一家の支柱の場合かつ被扶養者1人の場合 40%
一家の支柱の場合かつ被扶養者2人以上の場合 30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合 30%
男性(独身、幼児等を含む)の場合 50%

専業・兼業・高齢主婦(主夫)別の逸失利益の計算方法

専業主婦の場合

専業主婦(夫)の場合、基礎収入がどう扱われるかがポイントとなってきます。 この点、賃金センサスの全年齢女性平均賃金を用いることを覚えておいてください。これは、専業主夫である男性の場合でも同じです。 賃金センサスは、性別、年代別、職業別、学歴別などさまざまな条件からみた収入の平均賃金額を確認できるものですが、専業主婦(主夫)の家事労働は、その中の「女性」の平均額が基礎収入の根拠となる年収として評価されます。 インターネットで検索する際は、『賃金センサス 平均賃金 女性』などと調べると簡単にまとめているサイトがありますので参考になるかと思います。その際、逸失利益の計算に使う金額は“症状固定時”の年度のものなので、確認欄を間違えないようにご注意ください。

兼業主婦の場合

仕事と家事を両立している兼業主婦の場合は、「実際の年収平均賃金の高いほう」を基礎収入とすることができます。 主婦の傍らバリバリ働いて実収入のほうが高い方はそちらをベースに、パートタイマーなどで実収入に比べると平均賃金のほうが高くなる方は平均賃金をベースに適用します。ただし、1週間の労働時間が30時間以上の方は、自賠責では給与所得者の扱いになりますのでご注意ください。 この点、仕事もやって家事もこなしているのだから、両方合わせた金額にしてほしいと思われるかもしれません。しかし、例えば専業主婦と、遅くまで残業したり出張したりする兼業主婦、パートに出ている兼業主婦を比べても、家事にかかわる度合いが異なり、正確に評価しにくいのです。裁判所の判断も実収入に加えて家事労働分を加算することを認めないのが一般的です。

高齢主婦の場合

高齢主婦の場合は、67歳という年齢と、誰かのために家事を行っている実態の有無がポイントとなってきます。 そこで、67歳以上の方は、簡易生命表の平均余命の2分の1の期間を労働能力喪失期間とします。また、67歳に至っていなくても、「平均余命の2分の1」と「症状固定時から67歳になるまでの期間」を比較し、長いほうを採用することになっています。 さらに、基礎収入においても年齢や健康状態、「自分だけでなく誰かのために家事を行っていた」といった実態に沿って、年齢別の平均賃金額だったり、その何割だったりと相当程度減額して認められることがあります。

主婦(主夫)の逸失利益が弁護士の介入により認められた事例

家事労働への支障等を主張したことにより、約650万円を増額させた事例

本事案の被害者は専業主婦の方でした。 事故により、12級の後遺障害認定を受けており、相手方から賠償案を提示されたタイミングでご相談にいらっしゃいました。 賠償案を精査したところ、逸失利益にいたっては労働能力喪失期間が5年とされており、あまりにも短いことが判明しました。 担当弁護士は、診断書やカルテといった医療記録の精査とともに、被害者の訴えを法的観点に基づいて相手方に主張・立証しながら交渉を行いました。 結果として、後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間は14年にまで引き延ばすことができ、最終的に約650万円もの金額を引き上げることに成功しました。

主夫としての基礎収入が認められ、約720万円の賠償金を得た事例

本事案の被害者は、事故によりTFCC損傷などを負い、治療費の打ち切りのタイミングでご依頼くださいました。 今回の主な争点は、休業損害と逸失利益です。 被害者の前年度の収入が赤字申告となっていたため、基礎収入をいくらにするかが争点となりました。 この点、担当弁護士は被害者が子供と暮らしており、子供のために家事を行っていることに着目しました。そして、いわゆる「兼業主夫」として、実収入ではなく平均賃金と同程度を基礎収入に適用すべきと主張したのです。 結果的に担当弁護士の主張が全面的に認められ、休業損害と逸失利益ともに認定され、約720万円の賠償金を獲得することができました。

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逸失利益以外に受け取れる可能性のある賠償金

交通事故で賠償請求できるのは、逸失利益だけではありません。
ほかにも、以下のような請求費目がありますので、抜けがないようにチェックしておきましょう。

入通院慰謝料(傷害慰謝料) 事故で負った怪我の治療のために、入院や通院を強いられる精神的苦痛に対する慰謝料のことです。治療期間を根拠に算定するのが一般的です。
後遺障害慰謝料 事故で負った怪我が治りきらず後遺症として残り、これを抱えていく精神的苦痛に対する慰謝料のことです。症状の程度により認定される後遺障害等級ごとに金額が決まっています。
治療費等 事故による怪我の治療にかかわる費用です。治療費をはじめ、交通費、入院雑費、診断書料なども含まれます。
休業損害 事故で負った怪我の治療をするために会社を休んだりしたことで減ってしまった収入のことです。主婦(主夫)の方も家事を行なえなかったとして、請求することができます。

以下のページでは、請求方法も併せて詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。

主婦(主夫)でも逸失利益が認められる可能性があります。一度弁護士にご相談ください。

主婦(主夫)の方も逸失利益が認められる可能性があることがおわかりいただけたでしょうか? しかし、概要をつかめたところで、いざ自分で交渉するとなると話が変わってくるのが実情です。 賠償金として数字で示されてしまうと、適正額か判断がつきにくく、相手方保険会社とうまく交渉できないことも少なくありません。後になって適正額ではなかったことがわかっても、示談をしていればそれ以上請求することは出来ません。 この点、交通事故事案を経験してきた弁護士であれば、豊富な知識と経験に基づき正当な賠償を求めるべく交渉していくことが可能です。逸失利益は、基礎収入や労働能力喪失期間などが変わることで、大幅な増額がのぞめるものです。 「後悔しない解決」を目指すためにも、ぜひ一度弁護士への相談をご検討ください。

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※事案によっては対応できないこともあります。

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