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交通事故で腎臓に後遺障害が残ったら

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

交通事故で腹部に強い衝撃を受けると、筋肉や脂肪に守られた内臓を損傷してしまうことがあります。内臓には生命維持活動に不可欠なものも多く、また、内臓の損傷は大事に至ることが多いです。特に、腎臓は、老廃物の排出作用等、生命維持において重要な役割を果たすため、損傷すると重篤な後遺症が残る可能性があります。 本記事では、交通事故による腎臓損傷で後遺症が残った場合に、どうしたら適正な賠償が受けられるのか、後遺障害等級認定に焦点を当てて説明します。

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交通事故により腎臓を損傷したら

腎臓とは、泌尿器を構成する握りこぶし大の臓器で、腰のあたりに、左右対称に一つずつ存在します。血液を濾過し老廃物や塩分を尿として対外へ排出する一方、栄養分等の身体に必要なものは再吸収し、体内に留めてくれます。したがって、腎臓の能力が低下すると、老廃物等を体外に尿として排出することが困難になり、身体に蓄積した老廃物等が原因で尿毒症になります。 腎臓を損傷すると、出血性ショックや血尿、腎部の痛みと腫れ、あざ等の症状が現れることがあります。このうち、出血性ショックを起こした場合等には、適切な治療を施さないと死亡するおそれがあります。 腎臓の損傷が疑われる場合は、すぐに検査を受け、適切な治療を受けましょう。

検査と治療法

外傷による腎臓の損傷が疑われる場合、腹部の単純X線検査を行い、骨折の有無や消化管の異常の有無を確認します。そのうえで、経静脈性尿路造影(造影剤を静脈に注入し、尿路の状態や腎臓の形、排泄機能等について調べる検査)や超音波、CT画像検査等で、腎臓の損傷の程度や腹腔内の出血の程度等を調べ、治療方針を決定します。 腎臓損傷の治療は、ほとんどの場合で手術はせず、補液や止血剤を使用して絶対安静を保ち回復を待ちます。 しかし、出血性ショックを起こして回復しない場合は、開腹して腎臓の状態を直接確認し、縫合による止血や腎臓の摘出といった手術療法を行います。

交通事故による腎臓への影響

交通事故によって、背中側を道路に強く打ち付けたり、シートベルトで肋骨や脊椎等が圧迫されたりすることによって、腎臓を損傷することがあります。腎臓の損傷により、腎不全や遅発性高血圧等の合併症が引き起こされることもあるため、腎臓損傷が診断された場合には注意が必要です。 腎臓を損傷した場合、身体にどのような症状が出たり、影響を及ぼしたりするのでしょうか。以下、説明します。

腎臓損傷

腎臓の損傷の程度には4段階あり、挫傷(打撲や被膜下血種)、裂傷(亀裂)、破裂、腎茎部損傷の順に重度になります。 軽度の損傷では、上腹部や脇腹に痛みが生じあざができる程度ですが、重度の損傷になるにつれ、血尿や悪心、嘔吐等の症状がみられるようになります。また、腎髄質まで損傷が及ぶと、尿と血液が腎臓の外に漏れ出し、腎臓の疼痛や腹壁の硬化、圧痛といった腹膜炎の症状が強くなります。そして、腎臓の主な動静脈が切れる腎茎部損傷の場合には、腹腔内に大量出血し、死の危険もある出血性ショックに陥ることがあります。 このように、損傷の程度に応じて生じる症状は様々です。

腎臓摘出(亡失)

腎臓損傷の治療では、基本的に絶対安静を保つ保存療法を行いますが、保存療法では回復が望めない場合には、腎臓を摘出することがあります。 腎臓を片方摘出した場合、腎機能は低下しますが、残った腎臓が肥大して摘出した腎臓の働きを補えるようになることもあるため、人によって腎機能の低下の程度は様々です。 しかし、腎臓を両方摘出した場合、腎臓の機能が失われるため、人工透析を行う必要が出てきます。腎臓は、体内の老廃物等を尿として対外へ排泄する役割を担っているため、人工透析で腎臓の機能を代替しないと、尿毒症(老廃物が血液中に残存することで引き起こされる機能障害)等になってしまいます。腎機能の低下は、生命維持活動に大きな影響を及ぼします。

腎臓を損傷、摘出した場合に認定される可能性のある後遺障害等級

腎臓の損傷により後遺障害となる分類としては、

  • 腎臓が損傷し摘出する場合(腎臓の亡失)
  • 腎臓が損傷し機能が低下する場合
のいずれかです。

腎臓に関する後遺障害は、腎臓を亡失したか否かという点と腎臓のじん機能の低下の程度によって認定される等級が分けられています。
じん機能については、「糸球体濾過量(GFR)」の程度が判断材料として用いられます。

※GFR(糸球体濾過量)とは、糸球体において1分間に血液を濾過する量を表しています。尿として老廃物を排泄するという腎臓機能のレベルを数値化したものです。

GFR値
等級 腎臓を亡失した場合 腎臓がある場合
7級5号 31~50ml/分
9級11号 51~70ml/分 31~50ml/分
11級10号 71~90ml/分 51~70ml/分
13級11号 91ml/分 71~90ml/分

請求できる後遺障害慰謝料

腎臓の後遺障害は、障害の程度によって上記のとおり、7、9、11、13級のいずれかに認められます。 では、それぞれの等級認定時に請求できる慰謝料額はどの程度なのか、算定基準によって金額が異なりますので、この点にも着目しながら慰謝料額を比較してみましょう。

等級 自賠責基準 弁護士基準
7級5号 409万円 1000万円
9級11号 245万円 690万円
11級10号 135万円 420万円
13級11号 57万円 180万円

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腎臓を亡失した場合の慰謝料の計算例

腎臓を亡失するという後遺障害が残った場合に受け取ることのできる慰謝料は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料です。 具体的にどのくらいの金額を受け取ることができるのか、実際に例を用いて計算してみたいと思います。 入院期間8ヶ月(240日)、通院期間278日、実通院日数232日、後遺障害等級9級11号の場合を例とします。

自賠責基準

入通院慰謝料

自賠責基準では、4200円に
①入通院期間または②(入院期間+実通院日数)×2
のいずれか小さい方をかけて、入通院慰謝料を算出します。

今回の例の場合、①518日 < ②472日×2なので、
「入通院慰謝料=4200円×518日=217万5600円」
となりそうですが、自賠責保険における傷害分の賠償金の上限額は120万円なので、最高でも120万円となります。

後遺障害慰謝料

自賠責基準では、後遺障害等級9級11号の後遺障害慰謝料を245万円と定めています。

総額

したがって、「慰謝料総額=120万円+245万円=365万円」 となります。

弁護士基準

入通院慰謝料

弁護士基準では、赤い本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)に掲載されている、入通院慰謝料表によって、入通院慰謝料を算出します。 入通院慰謝料表には、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類がありますが、他覚的所見がないような軽傷の場合を除き、通常は別表Ⅰを使います。 そこで、別表Ⅰの入院期間8ヶ月、通院期間278日の重なる部分を参照すると、入通院慰謝料は320万5000円(切捨)となります。

後遺障害慰謝料

弁護士基準では、後遺障害等級9級11号の後遺障害慰謝料を、690万円と定めています。

総額

よって、
「慰謝料総額=320万5000円+690万円=1010万5000円
となります。

医療問題に強い弁護士にご相談ください

腎臓損傷の後遺症について、腎臓の重要性とともに理解を深めていただけたでしょうか。 腎臓は、生命維持活動において大変重要な役割を果たす臓器ですから、交通事故で損傷してしまった場合には、適正な賠償を受けることが大切です。しかし、保険会社に言われるがまま示談に合意してしまっては、本来受けられるはずの賠償を受けられなくなってしまうおそれがあります。 適正な賠償を受けるためにも、ぜひ交渉のプロである弁護士にご依頼ください。特に医療問題に強い弁護士であれば、医学的知識が必要とされる後遺障害等級認定の申請についても適切に対処することができます。また、後遺障害診断書の作成のポイントや治療の受け方についてのアドバイスも可能なので、適切に後遺障害等級が認定される可能性が高まります。 腎臓損傷の後遺症でお悩みの方は、医療問題に強い弁護士への依頼をご検討ください。

交通事故で腎臓の後遺障害が認められた裁判例

交通事故により「腎臓の後遺障害」を負った被害者と相手方とで行われる実際の裁判では、どのような点が争われ、どのように判断が行われていくのか、実例をご紹介します。

横浜地方裁判所川崎支部 平成28年5月31日判決

<事案の概要>

被告の運転する自家用普通貨物自動車が信号機のない交差点を左折したところ、横断歩道を歩行中の原告(当時3歳)に衝突し、左腎茎部損傷(左無機能腎)等の損傷を負った原告が、被告に対して損害賠償を請求した事案です。 左腎臓の機能喪失の後遺障害を負ったものの、残った右腎臓のみでも正常に腎機能が働いていること、食事制限や運動制限を行う必要がなく、生活上具体的な支障が生じていると見るべき根拠が乏しいことを理由に、逸失利益の有無が争われました。

<裁判所の判断>

逸失利益の有無を争う中でなされた原告と被告それぞれの主張に対して、裁判所は、以下のように判断しました。

【原告の後遺障害に関して】

原告の左腎臓の機能が失われたという後遺障害について、医学的にみれば、現時点における原告の右腎臓は正常に働いており、一つの腎臓でも必要な要素はなんとか備えているため生体の維持は可能であるとされ、現時点での食事や運動の抑制は不要であるとされています。 しかし、 ①原告の右腎臓に関しては、発達途中である小児の腎機能としてまだ完成されていないとみられることから、以降の身体の発達に合わせ相対的に腎機能が衰えていく可能性が高いと思われる医師の見解があること
②原告の右腎臓における腎機能は予備力を備えておらず、この無事であった腎臓の機能の推移には十分注意して、定期的な医師の検査と診察を受ける必要があり、さらなる腎障害をきたす出来事があれば、通常は問題がないレベルであっても、食事や日常の行動に制約をようする障害へ拡大する将来は否定できないと医師が判断していること
③原告の場合、同年代の子供と比べて溶連菌に感染することが少なくないところ、溶連菌は感染すると急性腎炎を引き起こすこと
もあるとされていることといった事情を考慮すると、右腎臓が外傷や疾患により機能を喪失したときは腎機能が全廃し、人工透析か腎移植をせざるを得なくなり、状況によっては命を落とすリスクもあることから、原告の後遺症の程度は、無事であった右腎臓の腎機能を可能な限り保護できるよう、生活上、就労上の配慮を必要不可欠とする程度であるといえるとしました。

【逸失利益の有無に関して】

原告は、後遺障害のために、職業選択及び就労上、重労働や夜間労働をする職種を避ける必要がある等といった労働生活上の不利益を受けることになります。
そのため、原告の労働活動に対する勤務評価に影響し、昇進、昇給や転職等に影響が及ぶおそれがあると考え、労働能力の喪失を認めました。
具体的には、認定された13級という後遺障害等級数に応じた労働能力の喪失(約9%)は負うことになったとして、後遺障害がもたらす逸失利益として、370万1249円の補償を与えるという判断に至りました。

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