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休業損害における稼動日数の影響

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

休業損害の計算をする際に、“稼働日数”という言葉が出てきます。休業損害の計算結果に大きな影響を与えかねない重要な根拠として用いられることもあるので、特に会社員などの給与所得者の方にとっては重要視すべきトピックといえます。このページで、細かい点までしっかりと理解しておきましょう。 ここでは、稼働日数が基礎収入額の計算にどのように影響してくるのか、具体的に解説していきます。

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稼働日数とは

稼働日数とは、出勤や在宅ワークなどで実際に労働した日数のことをいいます。
そもそも休業損害とは、【基礎収入額×休業日数】で算出されますが、適用する算定基準によって基礎収入額の扱いが異なります。
自賠責基準では、6100円※1が基礎収入額として扱われます。実収入に応じて上限1万9000円まで調整は可能ですが、実際もらえるはずだった金額との差があり、納得できない方もいらっしゃるはずです。この点、基礎収入額を【事故前3ヶ月の給与合計額÷暦日数90日】で算出するなど、任意保険基準で調整を図る保険会社もいますが、腑に落ちる金額とは言い難いでしょう。 一方、弁護士基準では、基礎収入額を【事故前3ヶ月の給与合計額÷当該期間の実稼働日数】で算出する考え方が取り入れられています。事実、この考え方が妥当であるという判断が下された裁判もありますし、過去の裁判例を集積している赤い本※2の講演録においても、基礎収入額を算出する際は稼働日数を用いることが裁判官によって明示されています。 休業損害をより多く獲得するには、基礎収入額を90日ではなく稼働日数で計算した方が有利であるケースがほとんどです。まずは、休業損害の算出においては基礎収入額が重要であること、そして、その基礎収入額の算出においては稼働日数が重要であることを覚えておきましょう。具体的な計算方法に関しては、こちらをご覧ください。

※1令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の5700円が適用されます。
※2「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 2018(平成30年)版」

有給を取得した日は実稼働日数に含まれる?

有給は実際には仕事をしているわけではないので、稼働日数に含まれるのかという疑問があると思います。 しかし、稼働日数とは“給与が発生する対象となる日”をいいます。有給を取得した日であっても給与が発生する以上は、基礎収入額を計算するうえでの実稼働日数となるでしょう。

治療のために半休・早退したら休業損害はどうなる?

治療のために、半休を取得したり、早退したりすることもあると思いますが、通院のために休んだり早退したりすることは、ある程度やむを得ないので、基本的には休業損害として請求可能です。ただし、休業損害の計算において、支払われなかった給与が半日分、相当時間分など、より細かく算出していくこととなりますので、休業損害証明書に具体的に記載してもらうなど、証拠資料として半休や早退したことを記録に残しておくべきです。 ただし、怪我の程度、症状、通院方法、日数等によっては、会社を休んで病院に行くことが不相当と判断される場合もあるため注意が必要です。 例えば、怪我がほとんど治ってきているにもかかわらず、毎日半日の午後休を取り整骨院に行っている場合など、会社を休む必要がないと判断されたケースでは、休業損害を請求できないおそれがあります。

治療のために遅刻したら休業損害に影響がある?

治療のために病院に行ってから出勤する場合には、出勤時間に間に合わず遅刻をするケースもあり得ます。この場合も、治療による遅刻で給与が減らされてしまったら、減額された分を「休業損害」に含めることができます。 遅刻をした場合も、半休・早退の場合と同様、労働できなかった相当時間分を休業損害として計算していくこととなります。

自宅療養した日は休業損害に含まれる?

治療ではなく自宅療養のために休業した日が稼働日数に含まれるかどうかは、「医師により自宅内での安静加療の指示があったかどうか」によって判断されます。医師からの指示があった場合は、休業日数として扱われる可能性が高い一方、自己判断による場合は、当然に休業損害が払われるものではないので、注意が必要でしょう。 怪我の程度や業務の内容等により休業することが相当である場合には、休業損害を請求できますが、仕事を休んだにもかかわらず休業損害が認められないケースもあります。 例えば、軽度のむちうちで、すでに軽快しているにもかかわらず、自宅療養として自己判断で仕事を休む場合には注意が必要でしょう。

休業損害における給与所得者の基礎収入額の計算方法

自賠責基準のように事故前3ヶ月の収入を90日で割る場合と、事故前3ヶ月の収入を実稼働日数で割る場合とで、どのくらい基礎収入額ひいては休業損害に影響を与えるものなのか、実際に計算例を交えて説明しますのでご確認ください。 月給30万円の会社員の方が、治療のため、20日仕事を休み、事故前の3ヶ月間の実稼働日数(勤務日数)を57日である場合を例とします。 基礎収入額を自賠責基準の【事故前3ヶ月の給与合計額÷暦日数90日】、弁護士基準の【事故前3ヶ月の給与合計額÷当該期間の実稼働日数】の2パターンで計算し、休業損害を算出してみます。 <自賠責基準>
【事故前3ヶ月の給与合計額÷暦日数90日】
基礎収入額:90万円÷90日=1万円
1万円×20日=20万円
※自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

<弁護士基準>
【事故前3ヶ月の給与合計額÷当該期間の実稼働日数】
基礎収入額90万円÷57日1万5800円
1.58万円×20万円=31万6000円
※前3ヶ月の実稼働日数を57日、休業日数20日としています。 以上の計算結果からも、明らかな違いがおわかりいただけると思います。

給与所得者以外の基礎収入額の計算方法

例えば、主婦(主夫)や学生、自営業といった、いわゆる給与所得者以外の方々の基礎収入額の算出においては、稼働日数の考え方はあるのでしょうか? 結論としては、国の賃金に関する統計である“賃金センサス”や“確定申告書”を365日で割った金額を基礎収入とすることが多いため、稼働日数が関連してくる可能性は低いといえます。 詳しくはこちらで解説していますので、ぜひ参考になさってください。

保険会社の主張と弁護士による交渉

“正当”で“納得できる”金額の休業損害を受け取るためには、基礎収入額を稼働日数で算出することが不可欠となってきます。 しかし、実際に示談交渉を進めていくと、自賠責基準の計算方法を根拠として基礎収入額を90日で算出した休業損害を提示してくる保険会社がほとんどです。提示内容について、いわば素人である被害者が交渉を試みても、根拠を求められるなど相応の負担・労力がかかりますので、精神衛生上良くないでしょう。 こうした交渉事は、交通事故事案の実績を重ねている弁護士に依頼すべきです。保険会社を相手に、どういった立証資料が必要なのか、適正額はいくらなのかといった事柄を丁寧に精査し、被害者に代わって交渉を進めていくことができます。

休業損害証明書を書く際の注意点

休業損害を請求するには、手続上、休業損害証明書が必要となります。多くの場合、保険会社から所定の様式を受け取り、職場の担当者に書いてもらう流れとなるでしょう。 ここで注意点です。休業損害証明書を記入してもらう際には、休業した日数はもちろんのこと、有給休暇や半日休暇、早退、遅刻についてもできるだけ細かく正確に書いてもらいましょう。要は、休業日数だけではなく、休業時間数についても記入してもらうということです。この記載があることで、より漏れなく休業損害を相手方に請求できる可能性を高められます。 また、職場担当者に記入してもらったら保険会社に提出してしまう前に内容を確認し、不備があれば追記・訂正を依頼することも重要です。この確認ができるようにするためにも、自分で休業した日にち、時間などを控えておくことをおすすめします。 この他にも、休業損害証明書には重要な記入欄があります。詳しい説明は、ぜひこちらをご覧ください。

休業損害の稼働日数についてご不明な点があれば、弁護士にご相談ください

休業損害を算出する際の基礎収入額は、「暦日数90日で割る場合」と「稼働日数で割る場合」とがあり、大きな差が出るケースは少なくありません。 保険会社は、休業損害の計算方法として自賠責基準を前提に示談を勧めてくることが圧倒的に多く、稼働日数に基づき計算すべきであることを、そもそも理解していないケースもあるほどです。 自分が想定していたより、もらえる休業損害額が少なく、この金額では今までの生活ができないという場合も散見されるのですが、その理由が計算方法の違いによるということに驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 この点、弁護士は、交渉に臨んだり訴訟手続などで争ったりする際、確かなる根拠をもとに、少しでも被害者の方に有利な計算方法で休業損害を算出して請求していきます。また、休業損害に限らず、交通事故全般に関する交渉を任せることができ、被害者の肉体的・精神的負担を和らげることができるでしょう。 弁護士法人ALGでは、交通事故に関する問い合わせ窓口を設けています。受付職員がお話を伺いますので、いきなり弁護士への相談を躊躇される方でも安心してお話いただけます。休業損害や稼働日数に関すること、その他不安なご状況について、ぜひお気軽にお聴かせください。

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