交通事故後に脳梗塞になった場合の慰謝料と因果関係について
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
交通事故後に脳梗塞になった場合、慰謝料(後遺障害慰謝料)はもらえるのでしょうか? そもそも慰謝料とは、事故により生じた精神的苦痛に対する賠償をいいますから、慰謝料請求が認められるためには、事故により脳梗塞になったという因果関係が認められることが必要です。
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目次
交通事故で脳梗塞は起こり得るのか?(交通事故と因果関係が認められることはあるのか?)
脳梗塞とは、脳の血管の縮小や血栓による詰まりにより、脳に十分な血流が行かなくなることで、脳細胞が障害を受ける病気をいいます。 脳梗塞の原因で多いのは、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満等の生活習慣病や心臓病、喫煙等です。 そのため、交通事故による怪我が原因で脳梗塞になるというのは考えにくいとされています。 しかし、実際に頚椎脱臼による頚椎損傷のために椎骨動脈損傷が起こり、脳梗塞へ発展した例がありますから、交通事故が原因で脳梗塞が起こることもあり得ます。 ただし、交通事故と脳梗塞との因果関係が認められるのは非常に難しく、一筋縄ではいかないのが現状です。
交通事故との因果関係と可能性が認められた場合の治療費の支払い
交通事故と脳梗塞の因果関係が全くないと認められる場合には、脳梗塞について、当然賠償を受けることはできません。これとは逆に因果関係が認められる場合にはもちろん賠償を受けることができます。 では、事故と脳梗塞との因果関係の可能性が認められる場合に、賠償金の支払いはどうなるのでしょうか? 自賠責保険では、「因果関係が明確ではないけれども因果関係がある可能性がある場合」には、賠償額の50%が支払われることがあります。 しかし、任意保険では、事故との因果関係が明確でなく可能性があるに過ぎない場合には、事故との因果関係を否定されます。したがって、因果関係の可能性があるだけでは、任意保険会社から賠償を受けることはできません。 「可能性がある」だけでは任意保険からは賠償を受けられず、自賠責保険からも半額しか受け取れません。また、「可能性がある」ことの証明には、医学的知識を始めとする多種多様な分野の知識を必要とします。 このような事件を解決するためには、医療過誤事件を経験し、医療調査をすることができる弁護士に調査依頼をした上で、裁判をする必要があるでしょう。
脳梗塞の因果関係が認められた裁判例
次に、因果関係がはっきりと認められた裁判例についてご紹介します。
熊本地方裁判所 平成25年3月26日判決
<事案の概要>
路側帯にいた被害者に車を衝突させ、右上腕骨開放骨折等の怪我を負わせ後遺障害を残したとして、被害者とその近親者が、加害者に対し損害賠償請求した事案です。主な争点は損害についてで、交通事故と脳梗塞との因果関係についても判示されました。
<裁判所の判断>
まず、平成20年5月2日に事故により、被害者が外傷性くも膜下出血等を発症しました。そして、その翌々日の5月4日午後6時頃に左片麻痺が出現し、MRI検査の結果、右前頭葉から側頭葉に梗塞巣が、頚部エコー検査の結果、右内頚動脈に乖離と血栓形成が認められ、事故による怪我が原因の脳梗塞と診断されました。 また、被害者は平成20年4月14日まで抑うつ気分等の症状のために精神療法を受けていましたが、事故後の被害者の集中力不足、記憶力減退、気分障害等は高次脳機能障害によるものとして、被害者に素因を認めませんでした。 その結果、その後の検査で脳出血痕が認められることや脳の高次脳機能障害等の後遺障害等級2級1号が認定されたことを踏まえ、本事案では、被害者の脳梗塞は事故による怪我が原因であると判断し、将来治療費、将来看護費、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料等の相当額である9037万2853円に年5分の利息を足した額の損害賠償が認められました。
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交通事故の後遺症と認められた場合に認定される可能性のある後遺障害等級
どのような症状が脳梗塞の後遺障害として認められるか、認定される可能性のある後遺障害を等級別に説明します。
・1級1号:「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」 身体機能は残っていますが、高度の痴呆のために、生活維持に必要な身の回りの世話の全面的介護が必要な程度の後遺障害をいいます。
・1級2号:「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」 著しい判断力の低下や情動の不安定のため日常の生活範囲が自宅内に限定されている程度や、排泄、食事等の活動を行うことはできるが、生命維持に必要な身辺動作には声かけや看視が欠かせない程度の後遺障害をいいます。
・3級3号:「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」 日常の生活範囲が自宅に限定されていない程度で、声かけや介助なしでも日常の動作を行うことができる程度ですが、記憶力や注意力、学習力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力等に著しい障害があり、一般就労が全くできないか困難な程度の後遺症をいいます。
・5級2号:「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 単純労働等については一般就労が可能ですが、新しい作業の学習力や環境変化への対応力に欠け、一般人と比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができない程度の後遺障害をいいます。
・7級4号:「神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 一般就労を維持できますが、一般人と同等レベルの作業を行うことができない程度の後遺障害をいいます。
・9級10号:「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」 一般就労を維持できますが、問題解決能力等に障害があり、作業の効率や維持力等に問題がある程度の後遺障害をいいます。
麻痺
麻痺が残った場合には、次の等級が認定される可能性があります。 1級1号/2級1号/3級3号/5級2号/7級4号/9級10号/12級13号
高次脳機能障害
高次脳機能障害が残った場合には、次の等級が認定される可能性があります。 1級1号/2級1号/3級3号/5級2号/7級4号/9級10号/12級13号/14級9号
めまい
めまいが残った場合には、次の等級が認定される可能性があります。 9級10号/12級13号/14級9号
感覚障害
感覚障害が残った場合には、次の等級が認定される可能性があります。 12級13号 /14級9号
弁護士に相談して裁判を起こす
交通事故により脳梗塞が生じた場合には、因果関係が認められるか、認められたとしても、素因減額により損害賠償額が減額されてしまうのではないかという問題があります。 素因減額とは、被害者の元々持っていた因子が結果に影響した割合分を賠償額から減額することをいいますが、自賠責保険では素因減額という考え方がありません。自賠責保険では、①因果関係があると認める場合には満額支払い、②因果関係の有無の判断が困難な場合には半額支払い、③因果関係を否定する場合には支払いなしという風に、両極端な支払いしか行われないのです。 そのため、裁判を起こして事故と脳梗塞との因果関係について可能性を認めてもらわなければ、1円も支払われないという危険性があります。 交通事故と脳梗塞の間に因果関係があるか否かというのは、医学的にも立証するのは極めて困難であり、脳梗塞によりつらい後遺症を負っていたとしても、適切な賠償が得られなければ、被害者本人及びご家族にとってたまったものではありません。 こうした危険を回避するためにも、弁護士に相談し、裁判で因果関係の可能性を認めてもらう必要があります。 適正な賠償を受けられるよう、ぜひ弁護士にご相談ください。
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