交通事故で脳脊髄液減少症になった時の慰謝料と治療法、原因について
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
この記事でわかること
「脳脊髄液減少症」という疾病は、聞き慣れない方も多いのではないでしょうか? 交通事故で受傷することが多い「むちうち」と混同されることも多く、ガイドラインはあるものの、未だ研究段階にあるのが脳脊髄液減少症です。 このページでは、交通事故による脳脊髄液減少症に着目し、詳しく解説していきます。
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目次
交通事故で脳脊髄液減少症になったときの慰謝料はいくらになる?
脳脊髄液減少症とは
脳脊髄液減少症とは、頭蓋骨内部の硬膜の損傷により脳を守る髄液が減少し、頭蓋内圧が低下する等して引き起こされる症状のことをいいます。 むちうちの一部が脳脊髄液減少症の原因になっているという説もあり、似た症状が出るため、むちうちと混同されやすい疾病です。また、比較的最近になって認知された疾病ですので、むちうち症と診断されたものの、実際は脳脊髄液減少症であったということもあります。 しかし、むちうち症は長くて6ヶ月未満で改善する傾向が強いのに対して、脳脊髄液減少症は、数年程度症状が継続することもあります。また、脳脊髄液減少症には、頭蓋内圧の低下による特有の症状がありますので、まったく別の疾病だといえるでしょう。 脳脊髄液減少症の診断には、慎重な判断が必要だといえます。
脳脊髄液減少症の症状
脳脊髄液減少症の症状には、次のようなものがあります。
脳脊髄液減少症に特徴的な症状
- 起立性頭痛…起き上がると頭痛が増すという、髄液減少のために起き上がった際に脳が硬膜と接触することが原因の症状
- 脳機能障害…聴力や視力の低下
- 自律神経症状
むちうちと共通の代表的な症状
- 首の痛み、めまい、耳鳴り、全身倦怠、吐き気等
脳脊髄液減少症の原因
脳脊髄液減少症とは、頭蓋骨内部の硬膜の損傷により脳を守る髄液が減少し、頭蓋内圧が低下する等して引き起こされる症状のことをいいます。頭蓋骨内部の硬膜の損傷が起こる原因の一つとして、交通事故や運動による頭部や体幹に対する衝撃が考えられます。しかし、原因不明のものもあり、各種の原因と発症との関係は未だ研究中であるといえます。 交通事故の怪我で多いむちうちの一部が脳脊髄液減少症の原因になっていると主張されることもありますが、発症との因果関係は未だ明らかになっていません。
脳脊髄液減少症の治療法「ブラッドパッチ」とは
脳脊髄液減少症の治療法には、3つの代表的な治療法があります。保存療法、ブラッドパッチ療法(硬膜外自家血注入)、アートセレブ療法(人口髄液)の3つです。 中でも、脳脊髄液減少症に対して最も有効なのは、ブラッドパッチ療法だとされています。ブラッドパッチ療法は、保存療法(水分を補給して体を水平に保ち安静に過ごす治療法)の効果がなく、1ヶ月以上続く慢性化した脳脊髄液減少症に対して行われる治療法です。具体的には、患者本人の静脈血を採取し、硬膜と背骨の間にある脂肪に注入することで、血液の凝固作用により硬膜の穴を塞ぎ、頭蓋内圧を一定にします。 脳脊髄液減少症に対して最も有効な治療法であることから、平成28年4月1日から保険適用されるようになりました。 ブラッドパッチ療法でも効果がない場合には、アートセレブ療法という、人口髄液を体内に注入する治療法が行われます。
脳脊髄液減少症の検査方法と診断基準
脳脊髄液減少症の検査方法としては、次のようなものがあります。
- 硬膜穿刺による診断…腰から硬膜へ細い針を刺し込み、髄液の圧力や流れを測定する検査方法(例:放射性同位元素(RI)脳槽シンチグラフィー/CTミエログラフィー/MRミエログラフィー等)
- 画像診断…硬膜の破損と髄液の流出の有無を確認する検査方法(例:MRI)
診断基準としては、平成23年に厚生労働省研究班が発表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」、平成25年に国際頭痛委員会が発表した「新国際頭痛分類基準」という2つの基準が用いられます。 そして、交通事故による脳脊髄液減少症発症が疑われる場合には、特に次の診断基準を満たすかどうかが重要になってきます。
- 低髄液圧(60mm水柱以下)の証明があること
- MRI等の画像によるびまん性、連続性硬膜肥厚造影所見の証明があること
- (起立性)頭痛が交通事故の時期に一致して発現したこと
獲得できる可能性のある後遺障害等級と認定基準
脳脊髄液減少症と診断され治療したものの完治せず、後遺障害が残った場合、後遺障害等級認定を受け、後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。 後遺障害として認定されるためには、脳脊髄液減少症を発症していることと、交通事故との因果関係の証明が必要となります。 つまり、以下の3基準を満たすことが必要となります。
- 低髄液圧(60mm水柱以下)の証明があること
- MRI等の画像によるびまん性、連続性硬膜肥厚造影所見の証明があること
- (起立性)頭痛が交通事故の時期に一致して発現したこと(=交通事故と因果関係があること)
脳脊髄液減少症の後遺障害として認められる等級としては、次のようなものがあります
- 9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(後遺障害慰謝料690万円)
- 12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」(後遺障害慰謝料290万円)
- 14級9号「局部に神経症状を残すもの」(後遺障害慰謝料110万円)
*なお、すべて弁護士基準での金額
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後遺障害として認定されるのに必要なこと
これまでに説明した通り、脳脊髄液減少症が後遺障害として認定されるためには、①他覚所見があり、脳脊髄液減少症と診断されていること、②交通事故との因果関係の証明があることの2つの要件を満たすことが必要です。 ①でいう他覚所見とは、患者の訴える症状と関係する客観的な異常所見のことです。後遺障害は認定されると金銭的な賠償が発生しますので、認定には客観的な根拠を必要とします。そして、認定の際に客観的な根拠とされるのが、他覚所見です。脳脊髄液減少症はむちうちと混同されやすいですが、他覚所見のない場合もあるむちうちに対し、脳脊髄液減少症は髄液圧の測定やMRI等の画像により、客観的に証明することができる場合が多いです。後遺障害等級認定の際には、診断の根拠となった他覚所見の証明が求められます。 次に、②の交通事故との因果関係の証明ですが、脳脊髄液減少症は、運動や出産時の負荷等により発症することが知られています。そのため、保険会社からは交通事故以外の原因で発症したのではないかと疑われてしまうことがあるので、交通事故との因果関係の立証が必要となります。 脳脊髄液減少症については、医師もその存在を知らないことがあり、正確な診断が難しいことがあります。また、保険会社も、脳脊髄液減少症の発症と交通事故との因果関係を争ってくると考えられます。こうした事情を考慮すると、被害者個人で適正な損害賠償を受けることは難しいといえるでしょう。 専門医を受診し、交通事故知識の豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
脳脊髄液減少症と交通事故の因果関係が認められた裁判例
実際に脳脊髄液減少症と交通事故の因果関係が認められた裁判例についてご紹介します。
【名古屋高等裁判所 平成29年6月1日判決】
<事案の概要>
加害者の運転する貨物自動車が、被害者が同乗していた乗用自動車に追突したことにより複数の後遺障害が残る傷害を負ったとして、被害者が加害者に対して損害賠償を請求した事案です。 主な争点は損害額で、被害者の脳脊髄液減少症等の発症の有無や後遺障害について、問題となりました。
<裁判所の判断>
裁判所は、①被害者の起立性頭痛の有無、②画像診断による異常所見の有無を基に、脳脊髄液減少症の発症の有無について判断しました。 まず、①被害者の起立性頭痛の有無ですが、被害者は交通事故直後、明確には頭痛を訴えてはいませんでした。しかし、事故から10日余り後には強い頭痛を訴えており、脳脊髄液減少症に伴って生じる症状である、めまい、耳鳴り、光過敏等が事故直後から存在していました。また、事故から数ヶ月後には起立性頭痛と認められる症状をはっきり訴えていました。そのことを考えると、事故10日後から訴えていた頭痛は、起立性頭痛だったと推認できるとしました。 次に、②画像診断による異常所見の有無について、臨床の現場で実際に診療活動を行っている専門医らによる画像診断の結果を受け、脳脊髄液減少症の発症を十分に認め得るとされる異常所見の存在があるとしました。また、本事案の画像の異常所見は、現在脳脊髄液減少症の診断基準として用いられている、厚生労働省研究班画像診断基準を満たす画像上の異常所見ではありませんでした。しかし、厚労省の基準が本事案の事故後に作成されたことや今後基準が変更される余地がないとはいえないことから、画像の臨床的な価値を否定するべきではないと判断しました。以上の理由から、被害者には起立性頭痛と脳脊髄液の漏出を裏づける画像所見が認められるとし、交通事故と脳脊髄液減少症との因果関係を認めました。
交通事故で脳脊髄液減少症になった場合の慰謝料の計算例
交通事故で脳脊髄液減少症になり、15ヶ月間通院のみを続け(継続中)、その内の実通院日数は380日で、後遺障害等級9級が認定された場合を例とし、弁護士基準での慰謝料を計算します。 入通院慰謝料について、弁護士基準を用いると、入通院慰謝料は164万円になります。 そして、後遺障害等級9級の場合なので、後遺障害慰謝料は690万円です。 したがって、慰謝料の総額は「164万円+690万円=854万円」となります。
弁護士基準でなければ慰謝料は取れないのか?
交通事故による脳脊髄液減少症の発症を主張し慰謝料を請求することは、保険会社の姿勢を考えると、被害者個人では非常に難しいといえるでしょう。現在の保険会社の実務では、脳脊髄液減少症の治療費を支払うことさえまれです。 また、平成23年10月に、厚労省の研究班が脳脊髄液減少症のガイドライン(厚労省中間報告基準)を発表したことで、社会的にも認知されるようになってきました。しかし、交通事故との因果関係の証明は未だに困難といわざるを得ず、保険会社と被害者との紛争は絶えません。 そのため、脳脊髄液減少症でもめてしまった事件については、裁判で争うことを前提として交渉しなければ、なかなか慰謝料請求が認められないでしょう。
弁護士への相談の必要性
保険会社は、簡単には脳脊髄液減少症に対する慰謝料請求を認めません。裁判で争うことを前提とした交渉姿勢を貫かなければ、慰謝料を支払うことはないでしょう。 裁判で争うことを前提とした交渉とは、弁護士基準に基づいた慰謝料額を算定し、それに基づいた交渉をすることです。 そのため、被害者個人での交渉は難しいものとなります。 なぜなら、弁護士基準で請求するためには、多くの専門知識や様々な資料の収集が必要だからです。 交通事故による脳脊髄液減少症でお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。適正な賠償を受けるためのお力添えをいたします。
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弁護士費用特約を使う場合
本人原則負担なし※保険会社の条件によっては
本人負担が生じることがあります。
弁護士報酬:成功報酬制
※死亡・後遺障害等級認定済みまたは認定が見込まれる場合
※事案によっては対応できないこともあります。
※弁護士費用特約を利用する場合、別途の料金体系となります。