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膝の痛みは後遺障害認定される?認定要件と慰謝料

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

交通事故に遭ってしまった際、相手方の自動車やバイクにぶつかったり、ぶつかった衝撃で転んだりした場合、膝にダメージを受けているおそれがあります。
擦り傷やあざ等、膝への受傷が明らかにわかる場合は痛み等の症状も自覚しやすいですが、膝の内部のねじれ等による症状は後から出てくることも考えられるため、自己判断で「軽い怪我」として放置していると、重症化しかねません。
このページでは、膝の痛みから考えられる原因と後遺障害、得られる慰謝料についてご紹介します。

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交通事故後から膝の痛みが続く時にやるべきこと

交通事故により、強く打ちつけたり、ねじったりして膝を痛めてしまうことがあります。膝は、大腿骨(太ももの骨)と、脛骨(すねの骨)をつなぐ、関節・筋肉・骨・靭帯・半月板等の軟骨といった、複数の組織が組み合わさった構造になっています。
そのため、膝に痛みを感じる原因は複数考えられ、損傷の部位や程度によっては、後遺症が残り歩行障害に至るおそれもあります。
交通事故直後に自覚症状がなくとも、後から膝に痛みが出てきたり、腫れてきたりするケースもあるため、軽微な事故であったとしても、病院で必要な検査や治療を受けることが重要です。

病院で治療を受ける

交通事故に遭い、膝に衝撃を受けたら、すぐに整形外科を受診しましょう。
レントゲン、CT、MRI等の画像検査を受け、骨や筋肉、神経等に損傷がないかどうかを確認します。
それらの検査でも損傷個所を特定できない場合は、ストレスレントゲン検査や関節鏡検査を受け、さらに詳細に損傷個所を調べます。
検査の結果、軽症であれば基本的に保存療法で治療をしていくことになります。
症状により、投薬や注射による鎮痛、ギプス等の装具による損傷箇所の固定、時期をみて可動域のリハビリへと移ります。
一方、重症であれば、手術療法にて治療をしていく方法もあります。
損傷箇所を切除・縫合する等して、修復・再建を図ったり、損傷の程度によっては人工関節に置換する手術を行ったりする場合もあります。

膝の痛みの原因

交通事故による膝への負傷は、多くの場合、膝が直接地面や車体にぶつかって衝撃を受けたり、正常な可動域の範囲外に向けて過度な圧力がかかったりすることで生じます。
しかし、膝は、関節・筋肉・骨・靭帯・半月板といった軟骨等、あらゆる組織によって成り立っています。
そのため、膝に痛みが生じる原因も、完治に至らなかったときに認められ得る後遺障害認定の内容もさまざまです。
以下では、交通事故後に発生する、膝の痛みの要因となり得る損傷内容及び症状等についてご紹介します。

半月板損傷

半月板損傷は、曲がった状態の膝に大きな衝撃が加わり捻られたとき等に生じ得ます。半月板は、膝関節の外方内方それぞれに位置する、半月の形をした軟骨組織の一種です。
通常、足にかかる衝撃を分散するという緩衝機能を備えています。
その機能で、膝関節における安定性の維持発達や、スムーズな動作に寄与しているのです。
受傷により、膝の痛みはもちろんのこと、膝の屈伸動作をすることが難しくなったり、できたとしても異音が生じたりします。
さらに、膝にひっかかりがあるような違和感や、膝関節に水及び血液が溜まることによる腫れといった現象もみられるようになります。 しかし、半月板損傷は、加齢やスポーツ等により交通事故に遭う前から発生していることもあるため、交通事故と発症の関連性が疑われやすく、争いになることがあります。

膝蓋骨骨折(しつがいこつこっせつ。膝のお皿の骨折)

膝蓋骨は、一般的に「膝のお皿」と呼ばれている骨です。
交通事故では、地面やダッシュボードへの膝の強打等によって負う怪我のひとつです。そのため、バイク事故による転倒や、交差点で車に横から衝突された際によく見られます。
膝蓋骨が体の役割として担う役目は非常に大きく、膝の屈伸時に太ももの筋肉と大腿骨の摩擦を調整し、健が切れることを防止しています。骨折してしまうと、膝の痛みや、歩行困難、屈伸の動作や立ち上がることができなくなる、膝関節に血液が溜まることによる腫れ等の症状がみられるようになります。

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう。膝のお皿の脱臼)

膝蓋骨は骨折だけではなく、脱臼してしまうことがあります。脱臼すると、膝が痛む、膝の屈伸や立ち上がる動作が難しくなる、膝関節に血液が溜まり腫れる等、骨折時と類似した症状がでます。
一方で脱臼の特徴としては、骨折と違いほとんどのケースで自然と正常な位置に戻るということが挙げられます。
ただし、位置の修復がなされずに何度も脱臼が起これば、習慣性脱臼や変形性関節症になるリスクもあります。
さらに、膝蓋骨脱臼は、膝の形態の先天的な異常が原因でも起こり得ることから、交通事故との因果関係が争われることもあります。

靭帯損傷(側副靱帯・十字靱帯)

交通事故により衝撃を受け、通常の可動域を超える範囲で膝がねじれる等したときに、靭帯を損傷することがあります。 靭帯とは、骨と骨をつなぐ、弾力性のある強靭な結合組織の短い束のことをいいます。
膝関節周辺には、膝の左右の動きを安定させる役割を果たす外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)、内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)と、膝の前後の動きを安定させる役割を果たす前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)の、4つの靭帯があります。
それぞれ単独で損傷することもあれば、衝撃を受けた部位や力が加わる方向によっては複数箇所を損傷することもあります。
靭帯を損傷すると、膝が痛む、膝の屈伸運動が困難になる、膝が不安定になり通常の可動域を超える範囲に曲がる(動揺関節)、膝関節に血液が溜まり腫れる等の症状が現れます。
交通事故により靭帯を損傷した場合の慰謝料に関して、詳しくは以下のページをご参照ください。

膝の人工関節置換術後

交通事故により上記のような負傷をし、その症状が重篤である場合、膝関節の可動域が制限されてしまう等の理由から、膝関節を人工関節に置換する手術を行うことがあります。
関節の損傷した部分を取り除き、金属やポリエチレン等で作られた人工の関節に置き換える手術です。
術後には、膝の痛みが緩和されたり、関節の可動域が改善されたりすることが期待できますが、それでも元通りの体に戻るわけではありません。
可動域が完全に戻らないこともあるほか、人工物を体に入れることで感染症等を引き起こすリスクもあります。

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膝の痛みで認定される可能性のある後遺障害

継続的な治療によっても膝の痛みが完治せず、後遺症が残ってしまった場合、第7級~第14級のいずれかの後遺障害等級が認められる可能性があります。
抱える症状に応じて得られる等級は異なり、さらに、詳細な検査等により症状が残存する事実を証明しなければならない等、複雑な点が多くなります。
そこで、膝の痛みについて、どのような症状であればどの程度の後遺障害等級が得られるのか等、以下で詳しく説明していきます。

機能障害(可動域制限)

膝の運動ができる範囲が正常時を下回る、通称「可動域制限」と呼ばれる症状が起きている状態を指します。
膝の関節・筋肉・骨・靭帯・半月板といった軟骨のどこかを損傷したことで、膝の機能に影響が及んでいるものです。
後遺障害等級申請にあたっては、怪我をした側と負傷を免れた側、それぞれの足の膝を比較し、交通事故による損傷の大きさを測定します。
また、認定され得る後遺障害等級としては、次の3つの候補が挙げられます。
まず、膝関節の硬直により可動域が約10%以下となってしまったか、関節の麻痺により完全な弛緩が引き起こされたということであれば、8級7号に該当します。
次に、膝関節の可動域が1/2以下に制約されているときは、10級11号に該当します(ただし、人工関節置換術を実施済の膝であれば8級7号になります)。
3/4以下に制約がかかっている状況であれば、12級7号に該当します。

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準※1 弁護士基準
8級7号 331万円 830万円
10級11号 190万円 550万円
12級7号 94万円 290万円

※1:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

動揺関節

膝の負傷、特に靭帯を損傷したとき等に、膝関節の安定性が失われ、通常の可動域を超えて膝が曲がったり、通常では考えられない方向に曲がったりする症状を動揺関節といいます。
動揺関節の場合、<機能障害(可動域制限)>でご説明した後遺障害等級を準用することになりますが、硬性補装具の必要性によってどの等級に該当するかが決まります。
硬性補装具が常に必要な場合は後遺障害等級8級7号準用、硬性補装具が時々必要になる場合は10級11号準用、硬性補装具が激しい労務の際に必要になる場合は12級7号準用が認定される可能性があります。

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準※2 弁護士基準
8級7号 準用 331万円 830万円
10級11号 準用 190万円 550万円
12級7号 準用 94万円 290万円

※2:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

変形障害

膝蓋骨や脛骨、腓骨等の骨折の後、元のように骨がくっつかず、癒合不全となった際、変形障害が認められ得ます。
該当部位が、関節のように動いてしまう状態(偽関節)で、硬性補装具を常に必要とする場合は後遺障害等級7級10号、硬性補装具を常には必要としない場合は8級9号、脛骨や腓骨等の長管骨に変形を残した場合は12級8号が認定される可能性があります。

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準※3 弁護士基準
7級11号 419万円 1000万円
8級7号 331万円 830万円
12級7号 94万円 290万円

※3:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

神経症状

膝への可動域の制限や変形障害には及ばずとも、神経に圧力がかかり損傷が引き起こされた結果、痛みや痺れが残ることがあります。
この痛みや痺れなどが、「神経症状」として後遺障害等級12級13号もしくは14級9号が認められる可能性があります。
MRI検査の画像等を根拠に、残った痛み及び痺れの感覚が神経症状に起因すると立証できれば、12級13号に該当し得ます。
また、画像上等での証明ができなくとも、自覚症状と神経症状の結びつきが医学的にみて説明可能であれば、14級9号に当てはまるとして、それぞれ後遺障害認定を獲得できる可能性があります。

請求できる慰謝料

等級 自賠責基準※4 弁護士基準
12級13号 94万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

※4:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

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膝の痛みで後遺障害等級認定された場合の慰謝料の計算例

【例】入院期間45日(1ヶ月半)・通院期間約435日(14ヶ月半)・実通院日数398日・後遺障害等級第12級7号(機能障害)

自賠責基準の計算例

  • 入通院慰謝料
    (入院期間45日+通院期間435日)×日額4300円※5=206万4000円
    120万円

自賠責保険では、治療費や休業損害等、傷害部分に係る損害賠償金の総額を上限120万円と定めているため、得られる入通院慰謝料は最大で120万円となります。
したがって、上記の計算で限度額を超過した分については、請求することができません。
また、本事例では、入通院期間が16ヶ月という長期間に及ぶ分、治療費や休業損害も高額となるため、実際に得られる入通院慰謝料は120万円を下回ると予想されます。

  • 後遺障害慰謝料
    94万円※6
  • 慰謝料計
    214万円

※5:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。
※6:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

弁護士基準の計算例

  • 入通院慰謝料
    203万円程度(※「赤い本」参照)
  • 後遺障害慰謝料
    290万円
  • 慰謝料計
    493万円

本事例では、

  • ①自賠責保険には限度額があるため、入通院慰謝料は減額されてしまうこと
  • ②自賠責基準で算出した慰謝料の合計金額が、弁護士基準で算出した入通院慰謝料と同程度かそれを下回ること
  • ③弁護士基準で算出した場合、自賠責基準で算出した慰謝料の2倍以上になること

などがわかります。つまり、より多くの慰謝料を得るためには、弁護士基準を用いて算出するべきであることが示されています。

交通事故後に膝が痛くなったらご相談ください

適切な後遺障害等級を得るためには、単に「膝が痛い」、「膝が曲がらない」等の自覚症状の訴えだけでは叶わず、それらの症状を、画像検査の結果等から医学的に証明または説明できるかが要件となります。
場合によっては、可動域が適切な方法で計測されているか、装具の必要性はどの程度か等が重要になってくることもあり、それらが後遺障害診断書にどのように記載されているかで、後遺障害等級の認定結果が左右される場合もあります。
しかし、それらを的確に判断して後遺障害等級の申請手続をするには医学的な知識が必要であるため、専門家のアドバイスのもとで手続を進めることが望ましいといえます。
そこで、交通事故の事案を多く取り扱った経験があり、さらに医学的な知識にも長けている弁護士に相談することをおすすめします。

交通事故で膝の痛みが認められた裁判例

【東京地方裁判所 平成21年8月31日判決】

<事案の概要>

信号機が設置されていない交差点において起きた、自動車同士の交通事故です。
被告が運転する自動車は直進しており、一方、原告が運転する自動車は、その対向方向から右折しようとしていました。その際、自動車同士が衝突し、負傷した原告が被告に対して損害賠償請求をしました。

<争点>

原告は、被告が運転する自動車に左方向から衝突されたうえ、その衝撃によって交差点に設置された電柱に正面衝突し、頚椎捻挫、腰椎捻挫、右膝半月板損傷を負いました。
後遺障害等級の事前認定結果では、頚椎捻挫に伴う頚部痛、両手の痺れ等の訴えと、腰椎捻挫に伴う腰痛、右下肢感覚障害の訴えについては後遺障害等級併合14級、右膝半月板損傷については後遺障害等級非該当と判断されました。
右膝半月板損傷が後遺障害等級非該当とされたことについて異議申立てをした際にも、症状の発現時期が本件交通事故から一定期間を経過した後であること等を理由に、本件交通事故と因果関係のある症状とは認められませんでした。

以上のことから、原告は、右膝半月板損傷については後遺障害等級10級11号に該当しているとして、後遺障害の内容を含め原告の被った損害等が争われました。

<裁判所の判断>

裁判所は、過去のカルテの記録より、交通事故当時に緊急搬送先にて左下腿挫創の診断を受けていることや、原告の陳述内容から身体下部への侵襲があったこと、事故翌日から両足関節、右膝痛が増強してきた旨を訴えていること、その後、疼痛を訴えて入院した病院の診断書には膝挫傷という傷病名が記録されていること等から、原告が本件交通事故の直後から膝の疼痛を訴えていたことが窺われると認めました。
加えて、MRI画像から窺われた右膝内側の損傷について内視鏡検査を行った結果、右膝内側半月板が真ん中から水平断裂していることが判明しており、切除術を受けてもなお膝関節痛がおさまらなかったことからみて、右膝関節半月板損傷は、本件交通事故と因果関係があることを認めました。
ただし、後遺障害診断書上から、原告が主張する後遺障害等級10級11号の要件に該当するような可動域制限や動揺関節等の記載が窺えず、膝の機能に著しい障害があるとは認め難いとして、右膝内側半月板損傷を起因とする膝疼痛に伴う歩行障害については、12級13号に該当すると判断しました。その結果、後遺障害慰謝料は第12級相当の290万円、原告が被った後遺障害慰謝料を含む損害賠償金額として2651万8833円の請求が認められました。

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