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末梢神経障害を後遺障害として認めてもらうには

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

末梢神経障害は、交通事故で多くみられる後遺症のひとつです。しかし、骨折や脱臼とは異なり、医学的に症状を証明することが難しく、後遺障害等級が認定されないケースも多くあります。
そこで本記事では、末梢神経障害の概要から、後遺障害等級の認定や適正な賠償を得るためのポイントまで、詳しく解説します。

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交通事故により末梢神経障害になったら

末梢神経障害とは、中枢神経である脳や脊髄から分岐する神経である末梢神経が損傷してしまい、神経機能に障害が起こっている状態をいいます。
末梢神経の正常な伝導が阻害された状態を指す「ニューロパチー」も同じ意味で使われます。末梢神経は脳脊髄神経と自律神経に区別されますが、機能的には、運動神経系、感覚神経系、自律神経系の3つに分けられます。
このような神経が損傷すると、それぞれの神経が司る機能に障害が生じてしまいます。具体的には、末梢神経は、中枢神経系と筋肉・感覚器官等を連絡する役割を担っているので、筋力の低下や感覚鈍麻、手足のしびれ、痛みなどが生じるおそれがあります。
なお、交通事故による受傷の中で最も多い「むちうち」も、神経障害のひとつです。交通事故により末梢神経障害になってしまったら、病院で適切な治療を受けましょう。
なお、むちうちについて、詳しくは以下のページで解説していますので併せてご覧ください。

末梢神経障害の治療法

末梢神経障害の治療法には、原因療法と対症療法があります。
原因療法とは、末梢神経の障害の原因を取り除く治療法です。対症療法とは、末梢神経障害によるしびれや痛みといった症状を緩和する治療法です。原因療法と並行して、対症療法が行われることが多いです。
対症療法では、しびれや痛みを取り除く目的で、抗てんかん薬や血流を改善する薬剤が投与されます。また、抗うつ薬や抗不安薬が投与されることもあります。
また、末梢神経障害ではしびれや痛みなどの症状のために関節や筋肉を動かさなくなり、関節の可動域の低下や筋萎縮を招くことがあるため、歩行訓練や運動といったリハビリも重要になります。

末梢神経障害の症状

末梢神経は、その機能によって、運動神経系、感覚神経系、自律神経系の3つに分けられるとご説明しました。損傷した場合は、それぞれの神経が司る機能に障害が生じます。では、具体的にどのような症状が出るのでしょうか。
以下にまとめましたので、ご参考にしてください。

運動障害

運動神経系を損傷した場合に生じるのが、運動障害です。具体的には、手足の筋力の低下や、筋肉がやせ細る筋萎縮が起こります。筋力が低下したり筋萎縮が起こったりすると、手足に力が入らない、うまく歩けない、物を落としてしまう、立ち上がれない、腕や膝といった関節が痛みで曲がらなくなってしまう等の症状が生じます。

感覚障害

感覚神経系を損傷した場合に生じるのが、感覚障害です。損傷した感覚神経が支配する部位の皮膚に、感覚障害が現れます。症状としては、触覚・痛覚・温度覚・関節覚(関節を動かしている感覚)等、さまざまな感覚が鈍る、なくなることが挙げられます。反対に、これらの感覚が過敏になり、しびれや痛みといった症状が起こることもあります。

自律神経障害

自律神経系を損傷した場合に生じるのが、自律神経障害です。自律神経は、全身の臓器や器官の働きを調整しています。
そのため、自律神経を損傷すると、発汗障害、血管運動障害、栄養障害、起立性低血圧などが現れます。
発汗障害では、皮膚の汗腺からの発汗が妨げられることで、皮膚が乾燥してしまいます。
血管運動障害では、損傷した神経の支配領域の血管が拡張して血流が増大することで、皮膚温度が上昇してしまいます。栄養障害では、皮膚・爪・骨の委縮や、皮下脂肪組織・結合組織の委縮がみられます。
起立性低血圧では、急に立ち上がったり、長時間立ち続けていたりすると、立ちくらみやめまい等が起こります。これらの症状は単独で生じることもありますが、ほとんどの場合、複合して現れます。

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末梢神経障害で認定される可能性のある後遺障害等級と慰謝料

末梢神経障害よる神経症状が残った場合、認定され得る後遺障害等級は、12級13号もしくは14級9号のいずれかになります。
どちらの等級であるかを判断する基準などについては、以下でご説明します。

神経症状

神経症状の後遺障害等級を判断する基準は、症状の「医学的な証明が可能かどうか」です。具体的には、レントゲン・CT・MRI等で撮影した画像や神経学的検査の結果に症状の他覚的(客観的)所見があれば、症状の「医学的な証明が可能である」として12級13号が認められます。
一方で、上記のような他覚的(客観的)所見がなく医学的な証明はできないものの、事故直後からその症状を訴え続けているなどの一貫性がある場合、症状の「医学的な説明が可能である」として、14級9号に該当する可能性があります。

請求できる後遺障害慰謝料

末梢神経障害で後遺障害と認定された場合、等級ごとに以下の慰謝料が支払われます。
どちらの等級でも、弁護士基準を用いると、自賠責基準と比べて約3倍の慰謝料が請求できます。

等級 自賠責基準 弁護士基準
12級13号 94万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

※自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

末梢神経障害の後遺障害等級認定のポイント

末梢神経障害で認定される可能性のある後遺障害等級は、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」、または14級9号「局部に神経症状を残すもの」です。
症状を医学的に証明または説明できる場合に、後遺障害として認定される可能性があります。症状を医学的に説明できるか、つまり他覚的所見があるかどうかは、主に脳波検査や神経学的検査、特に画像検査から判断されます。
そのため、交通事故後、早い段階でX線やCT、MRI等の画像検査を行い、他覚的所見を裏づける画像を残しておくことが12級13号の認定において重要といえます。
また、症状を医学的に説明できる場合とは、他覚的所見はないものの、交通事故の態様や怪我の程度、治療経過、症状の推移等から、現在訴えている症状が発生してもおかしくないということが医学的に説明できる場合です。医学的に説明できると判断されるためには、交通事故に遭った後、早い段階で受診し、事故直後から継続して一貫した自覚症状を訴える必要があります。
そのため、14級9号の認定では、治療の受け方が非常に重要となります。

医療に強い弁護士にご相談ください

末梢神経障害の後遺障害等級認定のポイントをご説明しましたが、実際にどのような画像が他覚的所見の裏づけに役立つのか、具体的にどのように治療を受けたらいいのか、判断するのは難しいと思います。
そこで、弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。その際には、交通事故だけでなく、医療にも強い弁護士をお選びください。医療に強い弁護士であれば、末梢神経障害の後遺障害等級認定のポイントも熟知していますし、後遺障害等級認定申請の経験を活かして、治療の受け方などについても的確なアドバイスをすることができます。適切な後遺障害等級認定を受けるためには、医療に強い弁護士に相談・依頼することが一番です。
適切な後遺障害等級の認定を受け、適正な賠償を受けるためにも、後遺障害等級認定申請の経験が豊富で、医療問題にも強い弁護士が集まる弁護士法人ALGにぜひご相談・ご依頼ください。

交通事故で末梢神経障害が認められた裁判例

【名古屋地方裁判所 平成28年2月26日判決】

<事案の概要>

本件の事故状況は、優先道路から交差点に進入した原告(普通自動車)と、非優先道路から交差点に進入した被告(普通貨物自動車)が衝突したというものです。
受傷した原告は、右上肢末梢神経障害が後遺障害として残ったと主張し被告に損害賠償請求をしましたが、その障害と本件事故の因果関係が争われ、裁判となりました。

<裁判所の判断>

原告の右上肢末梢神経障害は、脊柱管の狭窄が原因で発生したものでした。 しかし、原告はもともと後縦靭帯骨化症を患っており、事故前から既に脊柱管が相当程度に狭窄していたため、交通事故との因果関係が疑われ争いとなりました。
この点、裁判所は、原告について①交通事故直後から約2週間にわたって、打撲傷を原因とする強い疼痛が継続していた点、②その後両手にしびれを感じるようになり、医療機関でもその症状を訴えている点、③左手のしびれはなくなったが、右手のしびれはその後も継続した点、④しびれによって右腕を極力使わなくなり、周りからみても明らかな筋萎縮が生じたこと、⑤右手のしびれが、事故からしばらく経過しても悪化傾向にある等の点を事実として認めました。
これらを踏まえて裁判所は、「本件事故での外傷が原因で、原告が事故前から患っていた無症状の後縦靭帯骨化症が発症した」と解するのが最も合理的だと判断しました。
そして、最終的に、原告の右上肢末梢神経障害と本件事故との因果関係が認められました。

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