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交通事故による脊髄損傷の後遺障害等級・慰謝料・逸失利益について

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

外から強い力が加わる交通事故では、脊髄を損傷してしまう、いわゆる「脊髄損傷(せきずいそんしょう) 」を負ってしまうことがあります。 脊髄損傷により後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級認定を受けることが重要です。 しかし、認定となる後遺障害等級は決して同じではなく、脊髄損傷の症状や治療経過によって異なった後遺障害等級が認定される場合もあります。 そこで本記事では、脊髄損傷の症状や後遺障害等級をはじめ、脊髄損傷で請求できる損害賠償費目などについて詳しく解説していきます。

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交通事故による脊髄損傷とは?

交通事故が原因で、脊椎に衝撃が加わることにより脊髄に損傷が生じることを「脊髄損傷」といいます。

脊椎と脊髄の仕組み
脊椎(背骨) 背骨を構成する骨のことで、首(頚椎)~おしりのあたり(仙骨)まで40㎝以上あります。
なお、脊椎は合計24個の椎骨と尾骨が連結してできています。
脊髄 脊髄は、脊椎の中にある長い管状の構造物で、背骨の中の空間(脊柱管)に保護されるような形で存在しています。脳からつながる太い神経であって、脳からの司令で手足を動かしたり、痛みやしびれといった感覚を脳に伝えたりする重要な回路です。

脊髄損傷で起こる症状

交通事故によって脊髄損傷になった場合、以下の症状が現れることがあります。

  • ①麻痺
    • 片麻痺…身体の左右どちらかが、上下肢ともに麻痺すること
    • 対麻痺…左右の下肢がともに麻痺すること
    • 四肢麻痺…上肢・下肢が全て麻痺すること
    • 単麻痺…1つの上肢・下肢が麻痺すること
  • ②膀胱直腸障害
    尿意や便意を急に感じて我慢できない、逆に、これらを感じないのに漏らしてしまうなど、排尿や排便に支障をきたす状態
  • ③自律神経障害
    脊髄損傷に伴い自律神経が過剰反応する状態をいいます。高血圧や発汗等様々な症状がでます

脊髄損傷のレベル別の症状

脊髄のどの部分を損傷したかによって、様々な機能障害が出現します。 損傷した部分より下の脊髄が支配する領域で症状が現れます。そのため、損傷した部分が頭に近いほど出現する機能障害の程度、範囲が大きくなります。

残存する運動機能

  • C4 呼吸、肩甲骨挙上
  • C8~T1 指の屈曲、手の巧緻運動
  • T7~T12 骨盤帯挙上、体幹の屈曲
  • L4 足関節背屈(伸展)

脊髄損傷の種類

脊髄の損傷には、完全損傷と不完全損傷の2パターンが存在し、現れている症状の程度によって分類されます。 脊髄損傷は損傷の部位によって「完全損傷」と「不完全損傷」に分けられます。 以下で詳しく解説していきます。

完全損傷

完全損傷とは、脊髄が横断的に損傷した状態です。脳からの命令は届かず、脳へ情報を送ることもできなくなります。
そのため、運動機能と感覚知覚機能が失われ、いわゆる完全麻痺の状態になります。また、高位完全脊髄損傷では高い確率で自律神経系も損傷するので、体温調節や代謝機能も困難になります。

不完全損傷

不完全損傷とは、脊髄の一部が損傷した状態です。脊髄損傷の程度によって、失われる機能は異なります。運動機能が失われ、感覚知覚機能だけが残る場合もあれば、ある程度運動機能が残る場合もあります。

また、事故から時間が経つと、自分では動かせない筋肉が突然強張ったり、痙攣を起こすこともあります。
麻痺の程度によっては、箸やペンの使用、自力歩行等が困難になり、杖や車椅子等の補助器具が必要となることもあります。

交通事故による脊髄損傷の後遺障害等級認定 

脊髄損傷になると、麻痺が永久的に残る可能性があります。そうなると被害者ご本人の生活だけでなくご家族の生活まで大きく変わってしまうでしょう。 このような苦痛を賠償してもらうためにも、交通事故で脊髄損傷になり麻痺などの後遺症が残ってしまった場合には、「後遺障害等級認定」の申請を行うことが大切です。 適切な後遺障害認定を受けられれば、後遺障害等級に応じて“後遺障害慰謝料”や“後遺障害逸失利益”などを後遺障害部分として損害賠償請求できます。 次項では、脊髄損傷で獲得しうる後遺障害等級や後遺障害慰謝料などについて詳しく解説していきます。

脊髄損傷で該当する後遺障害等級

後遺障害等級 認定基準
第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
第3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
第5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号 第神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
第9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

事故による怪我が完治せず後遺症として残ると、「後遺障害等級認定」の申請をします。後遺障害等級が認定されると、等級に応じた後遺障害慰謝料を請求することができます。後遺障害等級は体の様々な部位や症状によって1~14級に分けられています。

後遺障害等級の申請方法については下記リンクで詳しく解説しています。ご参考ください。

脊髄損傷の後遺障害慰謝料

脊髄損傷を負うと日常生活では様々な苦労が生じると思いますが、その苦労に対しどの程度の慰謝料を請求できるのでしょうか。

慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があり、金額の目安は、自賠責基準 ≦ 任意保険基準 < 弁護士基準の順に高額となります。

任意保険基準は各保険会社独自の内部基準であり、公表されないため、下表では割愛させていただきます。

後遺障害等級 自賠責基準※1 弁護士基準
別表第1 1級1号 1650万円 2800万円
別表第1 2級1号 1203万円 2370万円
3級3号 861万円 1990万円
5級2号 618万円 1400万円
7級4号 419万円 1000万円
9級10号 249万円 690万円
12級13号 94万円 290万円

※1:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

損害賠償の計算は複雑になっており、計算式を覚えるのは困難なことです。下記の計算ツールを使えば簡単に損害賠償金の目安を算出することができます。ぜひご活用ください。

損害賠償額の計算ツール

脊髄損傷の後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残存したことによって得られなくなった将来にわたる減収に対する補償をいい、労働ができなくなった度合い(労働能力喪失率)に応じて計算されます。
下表は後遺障害等級に応じた「労働能力喪失率」を示したものです。

後遺障害等級 労働能力喪失率(%)
第1級 100%
第2級 100%
第3級 100%
第5級 79%
第7級 56%
第9級 35%
第12級 14%

後遺障害逸失利益については以下のリンクで詳しく解説しています。併せてご参考ください。

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交通事故の脊髄損傷で慰謝料以外に請求できる損害賠償

交通事故で脊髄損傷を負い、後遺障害等級が認定された場合に請求できる費目として下記のものがあります。損害賠償の請求をお考えの方は参考になさってください。

  • 治療関係費
  • 入院雑費
  • 付添費
  • 通院交通費
  • 休業損害
  • 逸失利益
  • 将来介護費
  • 将来雑費
  • 装具・器具購入費(介護ベッド・車椅子代等)
  • 家屋・自動車等改造費(家のリフォーム代等)

将来の介護費用

将来介護費とは、重度の後遺障害のために将来にわたって必要となる介護費用のことをいいます。 一般的に後遺障害等級1級もしくは2級が認定された場合のみ認められます。

<将来介護費用の算出方法>

将来介護費 = 年間の基準額 × 生存可能期間に対するライプニッツ係数

なお、金額の相場は介護する人によって異なります。 ・職業付添人(看護師・介護福祉士など)の場合:実費全額 ・近親者付添人の場合:常時介護が必要な場合は1日8000円

<対象となる期間>

原則、平均余命までの期間が対象となります(中間利息は控除します)。

装具、器具などの購入費用

必要性が認められれば、車椅子、松葉づえ、身体障碍者用ベッド、歩行器具などの購入費用も請求できます。
また、これらは必要に応じて買い替えることになるので、買い替えの費用も併せて請求することができます。

買い替えの回数は、一般的には平均余命の範囲内で厚生労働省の定める「補装具の費目、購入等に関する費用の額の算定等に関する基準」にある耐久年数に従って決められます。

例えば、車椅子の耐久年数は6年です。
症状固定時に被害者女性が30歳、平均余命57年とすると、初回含めて10回分の買い替え費用が認められます。

住宅などの改造費用

脊髄損傷によって後遺障害が残って住宅や車を改造する必要が生じた場合、その費用も相当な範囲で請求できます。
車の費用は買い替え分も請求可能です。裁判例では6年での買い替えを認めた例があります(横浜地地方裁判所 平成12年1月21日判決、東京地方裁判所 平成21年10月2日判決 等)。

将来の治療費関係

基本的には、症状固定後にかかる治療費を加害者側に請求することはできません。 なぜなら、損害賠償請求できる対象の期間は、「事故発生日から症状固定日まで」とされているからです。 ただし、以下のようなケースの場合には将来治療費として請求できる可能性があります。

  • 植物状態や半身麻痺などの重篤な後遺障害で半永久的に介護やリハビリが必要になる場合
  • 義手や義足を装着する必要がある場合
  • 症状固定の時期に疑義がある場合 など

しかし、理論上損害賠償請求できたとしても実際に賠償されるかどうかは加害者側との交渉次第となるため、交渉のプロである弁護士にご相談されることをおすすめします。

脊髄損傷で後遺障害等級認定されるためのポイント

脊髄損傷で後遺障害等級認定されるためには、画像所見(CTやMRI検査など)だけでなく、神経症状に関する所見を得る必要があります。 そのためには、血液検査や神経学的検査等の客観的検査を行い、他覚的にみて神経症状が生じていると診断されることが大切です。 なお、他覚所見がなかった場合でも、事故当初から痛みやしびれといった症状が一貫して生じていれば後遺障害等級が認定される可能性があります。 まずは、適切な検査をしっかりと受けるという行動を心掛けましょう。

脊髄損傷の後遺障害認定に必要な治療や検査を受ける

脊髄損傷の後遺障害認定では、画像で脊椎の所見を確認するだけでなく、損傷が生じた部分はどこなのかを適切な検査で確認する必要があります。 その確認を行うには、以下のようなテストがあります。

【誘発テスト】

神経を圧迫・牽引することで上肢や下肢に異常があるかを確認するためのテストです。
以下2つのテストで確認します。

  • スパーリングテスト
    頭部を症状がある側に後側屈(後ろに傾け)させて上から圧迫し軸圧を加えることで神経症状の有無を確認します。
  • ジャクソンテスト
    頭部を後に曲げ、軸圧を加えて圧迫することで神経症状の有無を確認します。

【深部腱反射】

腱の防御性の収縮を測るためのテストです。
腱の先端をゴムハンマーで叩き、筋肉の伸縮を測定します。

【徒手筋力テスト】

それぞれの筋又は筋群(筋に協働して動く筋の群れ)に対して一定の順番に徒手抵抗を加えることで筋の伸縮保持能力を測るテストです。

【病的反射】

心臓や脳に近い中枢側にある上位運動ニューロン(神経細胞)に障害があるかを確認するためのテストです。障害が生じている場合、健常者にはないような反射が出現します。

  • ホフマン反射
    患者の中指を上から下(爪側から掌側)にはじくと、親指や人差し指が内側に屈曲します。
  • トレムナー反射
    患者の中指を下から上(掌側から爪側)にはじくと、親指や人差し指が内側に屈曲します。
  • ワルテンベルク徴候
    人差し指、中指、薬指、小指を屈曲させて引っ張り合います。椎体路障害があると親指が内側に屈曲します。

【筋委縮検査】

脊髄障害に伴う運動量減少による筋肉の羸痩(痩せ)を測るためのテストです。

脊髄損傷による後遺症について弁護士に相談・依頼する

脊髄損傷は複雑な症状を表す場合が多いため、労働能力に及ぼす影響の程度によって後遺障害1級、2級、3級、5級、7級、9級、12級の7段階に区分して後遺障害等級が認定されます。 適切な等級の後遺障害等級認定を得るためには、CTやMRI検査などの他覚的所見だけでなく、神経症状の有無を医学的に立証する必要があることから、決して容易に後遺障害等級認定を得られるわけではありません。 そのため、後遺障害の認定に必要な検査や診断書のアドバイスはもちろんのこと、後遺障害等級申請手続きのサポートを受けて少しでも適切な後遺障害等級認定を得るためには、交通事故の経験豊富な弁護士にご相談またはご依頼された方がよいでしょう。

不全頚髄損傷により後遺障害等級2級1号が認定され、1600万円の慰謝料の増額にも成功した事例

賠償金額 約2700万円 ➡ 約4300万円
後遺障害等級 別表第一 2級1号
傷病名 脊髄損傷

退院後の自宅における付添介護費と症状固定時以降の将来介護費のほか、弁護士基準での後遺障害慰謝料及び近親者慰謝料の加算を主張した結果、当方の主張が認められ、約1600万円の増額にて示談できた事例です。 相手方から提示された賠償案を確認したところ、過失相殺等の点で有利に評価されている一方で、将来介護費は損害費目として挙げられておらず、慰謝料も近親者慰謝料がありませんでした。 そこで、全体的な増額交渉を試み、後遺障害慰謝料については、争点であった本件事故による現存障害と本件事故前にあった既存障害は、「全く別の原因で生じたものだから関連しない」と主張し、最終的に当方の主張がほぼ認められるかたちで示談することができました。

交通事故の脊髄損傷で適切な後遺障害等級認定を受けるためにもまずは弁護士にご相談ください

突然の交通事故で脊髄損傷を負われた方は急に生活が一変してお困りのことだと思います。
後遺障害等級の申請や相手方保険会社との示談交渉等を自分で行うことは、身体的、精神的にストレスのかかることです。

そんな時には弁護士に相談するのはいかがでしょうか。弁護士に相談することで後遺障害等級の申請のサポートや相手方保険会社との示談交渉も代わりに行うことができ、リハビリに専念することもできます。
また、賠償額はすべて1番高額な「弁護士基準」で算出するので、損害賠償額が高額になる可能性が高まります。

急に介護を要するような大きな怪我を負われてしまったご本人、ご家族の皆様は毎日不安と戦っていることと思います。一度その不安を私たち弁護士法人ALGに相談してみませんか。不安な気持ちや大変な思いを私たちにお聞かせください。

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