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ストレートネックの症状と後遺障害・むちうちとの違い

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

交通事故に遭った際に負ってしまう傷害としては、「むちうち(頚椎捻挫)」が最も多いといわれています。交通事故により突然強い衝撃を受けた場合、身体のなかで首は衝撃を受けやすい部位であるためです。また、首に衝撃を受けることで「ストレートネック」になることも多いといわれています。本記事では、交通事故の被害に遭い、ストレートネックになってしまった場合について説明していきます。

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交通事故によるストレートネックとは?診断されたら?

交通事故によるストレートネックとは?診断されたら?

頚椎(首の骨)は、30~40度前方に向かってカーブを描いている(前弯)状態が正常です。頚椎が曲がっていることで、頭の重さを分散させ、脳に衝撃を与えないようにしています。この頚椎がストレートになってしまっている(前方に向かって曲がっている角度が30度以下)状態を、「ストレートネック」といいます。ストレートネックになることで、顔が前に出るような姿勢になってしまいます。 ストレートネックになる原因は、日頃のパソコン作業やスマホ操作によって姿勢が悪い状態が続くことで、頚椎が変形してしまうことが一般的に多いといわれています。また、交通事故により首に衝撃を受けたことで頚椎が変形してしまい、ストレートネックになる場合もあります。 ストレートネックと診断されたら、まずは病院で治療しましょう。加えて、整骨院で施術をしたい場合には、後の損害賠償請求の際にトラブルになることを防ぐために、病院の医師に許可をもらったうえで、整骨院で治療する方が良いでしょう。

ストレートネックの治療法

ストレートネックの治療としては、基本的には保存療法が行われます。保存療法とは、首に装具を付けて安定させる等、症状を悪化させないようにする治療法のことです。痛みが強い場合、痛みを軽減するために非ステロイド性消炎鎮痛剤等を用いる薬物治療も保存療法の一環として行われることがあります。 保存療法により痛みが軽減してきたら、マッサージや体操等を行います。首の可動域を少しずつ広げることで、ストレートネックの改善につながります。

ストレートネックの症状と、むちうちとの違い

ストレートネックの症状には、頭痛・肩こり・首の痛み・めまい・手足のしびれ・吐き気・疲れやすい等があります。これらの症状はむちうちと似ていますが、ストレートネックとむちうちでは検査結果に大きく差が出ます。むちうちは画像検査で異常を確認できることは少ないです。しかし、ストレートネックはレントゲン検査で頚椎がストレートになっていることを確認できます。つまり、画像検査で診断を下すことができるということです。

ストレートネックの後遺障害等級と慰謝料

交通事故によりストレートネックになり、治療したものの治癒せず、首の痛みや手足のしびれといった神経症状が後遺症として残ってしまう場合があります。 ストレートネックで認定される可能性のある後遺障害等級には、「12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの」と「14級9号:局部に神経症状を残すもの」があります。 また、ストレートネック以外の後遺症も残っている場合には、仕事が相当限定されてしまうこともあります。このようなケースでは、まれではありますが「7級4号:神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」や「9級10号:神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に認定される可能性もあります。

神経症状

ストレートネックの後遺症として残る首の痛みや手足のしびれといった症状のことを、神経症状といいます。頚椎が変形することにより中を通っている脊髄が圧迫され、痛みやしびれ、麻痺等の神経症状が現れます。 しかし、神経症状は目に見える症状ではなく、自覚症状のみであることが多いため、後遺障害等級を認定してもらえるかどうか、認定してもらえたとしても何級に該当するのか、判断が難しい症状であるといえます。 実務上は、「医学的に証明できるのか?」「医学的に証明はできないものの、医学的に説明がつくものか?」といった観点で後遺障害等級認定は行われます。そのため、画像所見や電気生理学的所見、神経学的所見といった各種検査による他覚所見があるかどうかが問われることになります。

請求できる慰謝料

交通事故により後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合、後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛に対して、後遺障害慰謝料を請求することができます。 慰謝料の算定基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があります。ストレートネックで認定される可能性のある後遺障害等級において、自賠責基準と弁護士基準での後遺障害慰謝料の相場は、下記のとおりです。なお、任意保険基準は、任意保険会社ごとに差異があるため省略しています。

等級 自賠責基準※1 弁護士基準
第7級 419万円 1000万円
第9級 249万円 690万円
第12級 94万円 290万円
第14級 32万円 110万円

※1:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。詳しくは、こちらをご覧ください。

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ストレートネックで後遺障害等級が認定された場合の慰謝料の計算例

交通事故によりストレートネックの傷害を負い、「入院なし・通院期間6ヶ月(180日)・実通院日数90日・後遺障害等級12級13号が認定された」場合を例に、自賠責基準と弁護士基準で慰謝料はいくらもらえるのか計算してみましょう。なお、任意保険基準は、任意保険会社ごとに差異があるため省略しています。

自賠責基準

通院慰謝料
治療のため通院を要した場合、通院による精神的苦痛に対して、通院慰謝料を請求することができます。

自賠責基準での通院慰謝料は、
①通院期間
②実通院日数×2
を比較して少ない方の日数を、4300円※2にかけて計算します。

今回の例では、
①通院期間⇒180日
②実通院日数×2⇒90日×2=180日
となり、①・②ともに180日であるため、4300円に180日をかけた、
4300円×180日=77万4000円が、通院慰謝料の金額になります。

※2:新基準で算出しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。

後遺障害慰謝料
後遺障害等級第12級の自賠責基準での後遺障害慰謝料の相場は、先に表で示したとおり、94万円※3になります。

※3:新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。

弁護士基準

通院慰謝料 弁護士基準での通院慰謝料は、通院期間に基づき、日本弁護士連合会の書籍である『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本)』や『交通事故損害額算定基準(通称:青本)』等に掲載されている表を使用して計算します。 今回は、下記の赤い本の表を使用して計算します。

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】

通常の怪我の場合【別表Ⅰ】
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 AB 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286

むちうち等他覚所見のない比較的軽傷の場合【別表Ⅱ】

むちうち等他覚所見のない比較的軽傷の場合【別表Ⅱ】
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 A’B’ 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183

通常は別表Ⅰを使用して計算しますが、むちうちで他覚所見がない場合等、傷害の程度が軽い場合には別表Ⅱを使用して計算します。 今回の例では、後遺障害等級第12級が認められています。他覚所見がある場合に認められる後遺障害等級であるため、別表Ⅰを使用して計算します。通院期間6ヶ月の場合、通院慰謝料は116万円になります。

後遺障害慰謝料
後遺障害等級第12級の弁護士基準での後遺障害慰謝料の相場は、先に表で示したとおり、290万円になります。

交通事故でストレートネックになってしまったら

交通事故の被害に遭ったことによりストレートネックになってしまい、後遺症が残ってしまった場合には、適正な後遺障害等級認定を受けることで、適正な損害賠償金を受け取ることができます。しかし、ストレートネックは交通事故によって生じるものの他に、日頃の姿勢が影響して生じるものが多いため、交通事故との因果関係が疑われ、後遺障害等級認定を受けられないおそれもあります。また、ストレートネックの後遺症として残る神経症状は目に見えない症状であるため、後遺障害等級認定を受けることはことさら難しくなってしまいます。 適切な後遺障害等級認定を受けるためには、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。弁護士に相談することで、適正な後遺障害等級認定を受けるためのアドバイスがもらえるでしょう。また、弁護士に依頼することで、ストレートネックと交通事故との因果関係を立証する資料の収集等も代わりに行ってもらうことができるため、適正な後遺障害等級を認定してもらえる可能性が高くなります。なお、今回のように交通事故と医療に関する専門知識を要する場合には、交通事故に強く、なかでも医療に強い弁護士を選ぶと良いでしょう。

ストレートネックと交通事故の因果関係が認められた裁判例

【東京地方裁判所 平成7年2月14日判決】

この事案の交通事故態様は、タクシーが路上で客を乗せて発進させようとした際、前に駐車車両があったため、ななめに発進して車線変更しようとしたところ、同一方向を走行していた車と衝突したというものです。この交通事故により、同一方向を走行していた被害車両の同乗者に、頚椎前弯消失(ストレートネック)の後遺症が残ってしまいました。 裁判所は、ストレートネックの後遺症が残ってしまった被害車両の同乗者に対し、「後遺障害等級14級」を認めました。認定の理由としては、「医師の後遺障害診断書の内容に誇張があったのではないか、事故以外の原因で後遺障害の症状が生じたのではないか、との疑いを持つべき証拠がないこと」と、「後遺症が残った同乗者は、事故時、進行方向右側を見るため少し身を乗り出して座っており、他の同乗者とは異なった衝撃を身体に受けた可能性があること」を挙げました。そのうえで、「ストレートネックは事故により生じた」と判断し、ストレートネックと交通事故との因果関係を認め、後遺障害等級第14級を認定するに至りました。

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