無職でも逸失利益は請求できる?計算方法や事例

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
この記事でわかること
「逸失利益」という言葉を日常的に耳にすることは決して多くありません。 交通事故による逸失利益とは、事故がなければ将来得ることができた収入を事故のせいで得られなかったことに対する賠償のことをいいます。収入に対する賠償であれば、「無職だと逸失利益は関係ないのでは?」と思われがちですが、そんなことはありません。 そこで本記事では、「無職の方の逸失利益」に着目し、無職の方の逸失利益が認められる条件などについて詳しく解説していきます。
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目次
無職や失業者の場合でも逸失利益は認められる
無職や失業者の場合でも、逸失利益が認められる可能性はあります。 そもそも逸失利益とは、交通事故がなければ得られたが、交通事故に遭ったことで得られなくなった利益をいいます。たとえば、将来もらえるはずだったのに交通事故による怪我や死亡が原因で得られなくなってしまった給料・年金などが該当し、“損害”として加害者側に賠償請求することが可能です。 逸失利益には、主に以下の2種類があります。
- <後遺障害逸失利益>
事故がなければ得られたが、事故による後遺障害によって得られなくなった利益 - <死亡逸失利益>
事故がなければ得られたが、事故により死亡したことによって得られなくなった利益
一見、収入のない無職や失業者の方には関係ないものに思えますが、いくつかの要件を満たせば認められる可能性があります。では、どのような要件を満たせばよいのでしょうか? 次項にて、その要件について詳しく解説していきます。
無職の方の逸失利益が認められる条件
無職でも、事故がなければ就労していた“蓋然性”が認められる場合には、逸失利益が認められます。
◇蓋然性とは?
「物事が起こる確実性の度合い」「確からしさ」という意味で、ある物事や事象が実現するか否か、または知識が確実かどうかの度合いのことをいいます。 就労の蓋然性の有無を判断するポイントには、以下のようなものが挙げられます。
- ①就労意欲がある
- ②就労能力がある
- ③就労の可能性・見込みがある
では、各ポイントについて詳しくみていきましょう。
①就労意欲がある
働く意欲があったことは就労の蓋然性を判断する上で重要な事情です。 例えば、実際に面接に行くなど積極的に就職活動を行っていたような場合には、就労意欲があると判断されやすいでしょう。 逆に、健康体でも長年就労しておらず、就職活動も行っていなかったような場合には、逸失利益も存在しないと判断されるおそれがあります。
②就労能力がある
逸失利益を認めてもらうには、働く能力があることも重要です。 具体的には、事故当時の年齢や健康状態、事故以前の職歴、事故後の就労などが関係してきます。 例えば、事故当時は無職でも、事故の少し前までは働いていた場合などは、働く能力があると認められやすいことになります。 逆に、事故前から持病により全く働けない場合などは、逸失利益も否定されることになるでしょう。
③就労の可能性・見込みがある
働ける可能性・見込みがあるかどうかも重要ポイントです。 働く意欲、働く能力があることが、働ける可能性・見込みにもつながってくるといえます。 この点、現在就労できない幼い子供や若者も、将来は働ける可能性があると判断されやすいです。 特定の職を目指して専門学校に進学していた場合や資格を取得していた場合なども、働ける見込みがあると判断されやすいでしょう。
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無職の人の逸失利益の計算方法
《後遺障害逸失利益の場合》
無職の方が事故で後遺障害を負った場合には、主に次のような計算式で後遺障害逸失利益の金額を算出します。
後遺障害逸失利益 = 基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
《死亡逸失利益の場合》
死亡逸失利益の具体的な金額は、次のような計算式に基づき算出されます。
死亡逸失利益 = 基礎収入 ×( 1 - 生活費控除率 )× 死亡時の就労可能年数に応じたライプニッツ係数
なお、以下のページでは、どれくらいの慰謝料を賠償請求できるのか概算で知ることができます。 年齢、性別、入通院期間や年収などの情報をご入力いただくことで計算結果が表示されますので、大まかな金額を知りたいという方は、ぜひご参考になさってください。
基礎収入
基礎収入とは、通常だと事故に遭う前の年収をいいますが、無職者の場合は実際の収入がないので何かと争われがちです。 基礎収入は、被害者の方の状況によって異なりますが、年齢、性別、学歴等に対応した平均賃金(賃金センサス)を参考にして決まる場合もあります。詳しくは、以下を参考にしてください。
子供・30歳未満 | 賃金センサス<男女別労働者の全年齢平均賃金> ※女子年少者:賃金センサス<全労働者かつ全年齢の平均賃金> |
---|---|
内定者 | 内定先の平均賃金 |
大学進学の可能性が高い | 賃金センサス<大卒の平均賃金> |
専業主婦(主夫) | 賃金センサス<女性の全年齢平均賃金> |
兼業主婦(主夫) | 実収入と賃金センサス<女性の全年齢平均賃金>の多いほう |
その他 | 個別具体的な事情に応じる |
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、事故による後遺障害によって事故前のように働けなくなったことについて、労働等への支障の程度を示す割合です。 具体的な数値は下表のとおり、認定された後遺障害等級によって決まっていますが、症状の程度や内容、その他の事情により変更となる場合もあります。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級~第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、事故による後遺障害によって労働能力が失われる期間をいいます。 一般的には、「67歳までの年数」もしくは「平均余命の2分の1」を比較し、いずれか長い方を労働労力喪失期間とします。 しかし、むちうちは後遺障害の中でも軽度であるということから、労働能力喪失期間が以下のように制限されることが多いため、注意が必要です。
● 12級の場合 ⇒ 労働能力喪失期間は5年から10年 ● 14級の場合 ⇒ 労働能力喪失期間は5年以下
具体的な労働能力喪失期間は、症状の程度や日常生活への支障などの様々な事情から適宜判断されますが、保険会社から厳しく判断されることは少なくありません。
ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、逸失利益の計算時に“中間利息”を控除するために利用する係数のことです。 逸失利益は、本来見込まれていた将来の収入に対する損害を示談成立時に一括で受け取ります。お金は、運用することで利益を生み出すものであるため、預け入れや運用によっては利益を生み出し、事故による損害以上の利益を得ることができてしまいます。この利益を「中間利息」といいます。 損害以上の利益を得るということは、いわばもらいすぎの状態であるため、それを解消するべく中間利息を引くために用いられるのがライプニッツ係数ということになります。
生活費控除
一家の支柱の場合かつ被扶養者1人の場合 | 40% |
---|---|
一家の支柱の場合かつ被扶養者2人以上の場合 | 30% |
女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合 | 30% |
男性(独身、幼児等を含む)の場合 | 50% |
生活費控除率とは、逸失利益の計算時に、死亡しなければ費消していた生活費を控除する際に用いる割合のことです。 生活費控除率は、性別、家族構成、家庭内の役割、属性などが考慮され、一般的には下表の割合であると考えられています。 たとえば、妻と子供1人をもつ一家の支柱が事故で死亡した場合の生活費控除率は、30%が目安とされています。無職の方が死亡した場合でも、存命であれば生活費が発生したといえるため、生活費の控除をする必要がでてきます。
【ケース別】逸失利益がもらえる場合・もらえない場合
主婦(主夫)の場合
前提として、主婦(主夫)の方は、ご自身を無職と思わないでください。 交通事故の損害賠償請求上、他人のために行う家事は“労働”と考えられるためです。 ただし、実際に給与が発生しているわけではないので、金額を算定する際には平均賃金(賃金センサス)等を参考に評価されることになります。 専業主婦の場合は、女性全体の平均賃金額等を収入として考えます。これは、男性の場合(=専業主夫)も同様です。兼業主婦(主夫)の場合は、実際の収入と平均賃金を比較して、多い方をもとに逸失利益を計算していくことになります。
若年者やいわゆるニートの場合
子供や学生といった若年者は、実際に働いた経験はないものの、将来仕事に就く可能性は十分あります。こうした可能性が事故により奪われてしまったのですから、基本的に逸失利益も認められます。 この場合、実際に得られていたはずの収入がわからないため、厚生労働省が発表している賃金に関する統計(「賃金センサス」といいます)をベースに逸失利益を計算します。このとき、最終学歴等の個別事情が考慮されることになります。 ただし、同じ若年者でもいわゆるニートのように外形的に働く意欲がないと判断されてしまう場合には、逸失利益が認められない可能性もあります。
示談前に就職が決まった場合
示談前に就職が決まった場合には、この事実が就労の意思や能力を認める根拠となりえます。内定通知書等の書面は証拠資料として提出できるようにしておきましょう。 この場合の逸失利益は、内定先の見込み給与額を参考に計算することもあります。 ところが、若年層の初任給は厚労省統計の平均賃金よりも低く設定されていることも珍しくありません。 このようなケースでは、内定先の見込み給与額ではなく、平均賃金(賃金センサス)で計算した逸失利益を請求する場合もありますので、ぜひ覚えておいてください。
事故の影響により内定が取り消しになった場合
事故の影響で内定が取り消しになってしまった場合は、 “内定の事実”は、逸失利益の請求に必要とされる、就労意欲、就労能力、就労の可能性・見込みが非常に高いことを証明してくれます。 逸失利益の額は、基礎収入をもとに計算しますが、内定が取り消された場合の基礎収入は、内定先の条件をベースに算出することもできますし、内定先の職種、被害者の学歴、年齢などを考慮した平均賃金(賃金センサス)をベースに算出することもできます。
生活保護を受けていた場合
交通事故時に無職であり、かつ生活保護を受給していた場合に逸失利益は認められるのでしょうか? 生活保護を受給している事実は、就労の意欲や能力を低くみられる要素となり得ます。しかし、事故の直前に事業を始める相談を進めていたケースで、「就労の意欲、能力がある」として逸失利益が認められた例もあります。 そのため、具体的な事情を説明、立証することで就労の意欲や可能性を示すことができれば、無職かつ生活保護を受けていた場合でも逸失利益が認められる可能性はあります。
高齢者の場合
高齢者であっても、就労の蓋然性がある場合には、逸失利益について認められるケースがあります。 例えば、退職して間もなく再就職のため積極的に活動していた、専門的な知識・技術・資格を持っている、といった将来就労する蓋然性を示す事情がある場合には、逸失利益が認められる可能性があります。 また、妻や夫の世話をしていた場合には、家事従事者としての逸失利益が認められることがあります。 その他、年金受給者の死亡事故の場合、年金の種類によっては年金受給額をもとにした逸失利益が認められます。
フリーターの場合
フリーターの逸失利益は、事故に遭う前の被害者の就労状況によって異なります。 たとえば、今まで収入のある仕事に就いていたが転職しようと退職し、その間フリーターで繋いでいたような場合には、就労すれば稼ぐことができると考えられるため、逸失利益が認められる可能性があります。一方で大学卒業後、就労せずに親元で遊びながら最低限の収入を得ていた場合には、逸失利益が認められる可能性は乏しいでしょう。 とはいえ、就労意欲はあるものの、良い機会に恵まれない方も多くいらっしゃるはずです。このような場合には、決して不利にならないように示談交渉を慎重に進めていく必要があります。 また、示談交渉で話し合いが難航する場合には、裁判となることも少なくありません。裁判となった場合には、裁判官が被害者の収入に関して、「今は少ないけど、いずれは同世代の平均的な賃金を稼ぐだろう」と考慮できるか否かが重要となります。
無職でも逸失利益以外に受け取れる可能性がある賠償金
無職の方でも、逸失利益のほかに受け取れる可能性のある賠償金があります。 下表にまとめましたので、ぜひご参考になさってください。
治療関係費 | 治療費、通院交通費(駐車場代)、入院雑費、付添費、装具・器具購入費、文書作成費などです。 |
---|---|
慰謝料 | 事故の怪我により強いられた肉体的・精神的苦痛に対するものです。 入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2種類があります。 |
休業損害 | 事故の怪我により仕事を休んだせいで減ってしまった収入のことです。 事故時に無職でも、治療期間中に就労する蓋然性が高い場合には、休業損害を請求できる可能性があります。 |
物損 | 修理代、評価損、代車費用、買替代金、買替諸費用、休車損、積荷損などです。 |
上表の休業損害と逸失利益については、無職であること自体が請求の可否や金額に影響を及ぼします。 休業損害は、事故が原因で仕事を休んだり十分に稼働できなければ請求できませんが、逸失利益は、家事労働者や無職者(今後働く見込みがあった人に限り)であっても請求することができます。
◇ 休業損害と逸失利益の違いとは?
休業損害は、被害者が交通事故による怪我が固定するまでの間に、怪我の療養のために休業したり、十分に稼働できなかったりしたことで生じた現実の収入の減少をいいます。一方で逸失利益は、交通事故がなければ被害者が得られたであろう将来的な利益をいいます。
無職の逸失利益に関するALGの解決事例
ここで、無職の方の逸失利益について弁護士が交渉し、大幅な増額のうえ解決へと導くことができた当法人の解決事例をいくつかご紹介いたします。 ぜひご参考になさってください。
無職の逸失利益等について争い、ご依頼から2ヶ月足らずで800万円増額した事例
依頼者は、バイク事故により、後遺障害等級併合10級に該当する怪我を負い、事故前に正社員として内定を受けていたにもかかわらず、事故の後遺障害により仕事ができなくなりました。保険会社からは約1300万円の賠償案を提示されていましたが、保険会社から提示された金額で示談することに不安を抱かれ、ご相談くださいました。 “無職”ゆえに基礎収入が争われるかと思いきや、弁護士が、内定先での就業条件が記載された契約書を提示したことで、特に強い反発はありませんでした。 しかし、休業損害と逸失利益の算定期間や慰謝料について厳しく争われました。 度重なる交渉の結果、当初の額より約800万円増額させた約2100万円での示談案を提示させることに成功しました。 まだ交渉の余地はありましたが、依頼者が2ヶ月足らずで約800万円も増額したことに納得されたため、約2100万円で示談が成立しました。
事故当時無職だった被害者の逸失利益が認められ、約290万円の賠償金を獲得した事例
依頼者は、停車中に後続車から追突され、頚椎捻挫と腰椎捻挫の傷害を負いました。依頼者は、事故当時無職(転職活動中)であったことから逸失利益などを踏まえた賠償額について不安を抱かれ、ご相談くださいました。 まず、弁護士により被害者請求を行い、後遺障害等級14級9号の認定を受けました。その後の示談交渉では、被害者が“無職”であったことで休業損害と逸失利益について厳しく争われました。 相手方にも代理人弁護士が就き交渉は難航しましたが、度重なる交渉の結果、逸失利益については依頼者と同年代、同学歴の平均賃金の値を用いる方法での算出が認められ、既払い分や自賠責からの保険金(75万円)を除いた、約290万円で示談を成立することができました。
無職の方が交通事故に遭ったら弁護士にご相談ください
無職の場合でも、逸失利益を請求できる可能性は十分にあります。 とはいえ、交渉慣れした保険会社と直接交渉をしても、そう上手くはいかないものです。計算方法とその根拠を理解して、保険会社と交渉を進めなければなりません。 ぜひ、交通事故事案の経験豊富な弁護士法人ALGにお任せください。 弁護士であれば裁判をも辞さない姿勢で交渉を進めることができますし、弁護士法人ALGには今まで積み重ねてきた十分な実績とノウハウがあります。 逸失利益が認められるかどうかによって、最終的な賠償金額に何十万、何百万、何千万円もの差が生まれうるのです。 弁護士法人ALGでは、お気軽にご相談いただける体制を整えています。 「依頼しておけばよかった……」と手遅れになる前に、ぜひ一度お問い合わせください。
交通事故被害者専用 相談窓口まずは交通事故の受付スタッフが丁寧にご対応いたします
交通事故に遭いお困りの方へ


交通事故事件の経験豊富な
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弁護士費用特約を使う場合
本人原則負担なし※保険会社の条件によっては
本人負担が生じることがあります。
弁護士報酬:成功報酬制
※死亡・後遺障害等級認定済みまたは認定が見込まれる場合
※事案によっては対応できないこともあります。
※弁護士費用特約を利用する場合、別途の料金体系となります。