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高齢者が交通事故に遭った場合の慰謝料|死亡事故の場合や逸失利益なども解説

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

70歳・80歳・90歳といった高齢者の方が交通事故に遭われた場合、「高齢であること」は慰謝料に影響するのでしょうか? 交通事故の慰謝料の計算方法は、被害者が高齢者でも若者でも基本的に大きな違いはありません。 ただし、過失割合や被害者の素因が問題となって、結果的に慰謝料が減額されてしまうことがあるので注意が必要です。 本ページでは、【高齢者が交通事故に遭った場合の慰謝料】に着目して、請求できる慰謝料の種類や相場を解説していきます。 被害者が高齢者の場合に争いとなりやすい、過失割合・素因減額・休業損害・逸失利益などもご紹介していきますので、ぜひご参考ください。

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目次

被害者が高齢であることは慰謝料に影響する?

交通事故の慰謝料は、被害者の年齢によって計算方法が大きく変わることはありません。 高齢者だからという理由だけでは、慰謝料が低くなることはありませんのでご安心ください。 もっとも、「高齢であること」が影響して、過失割合や素因減額によって慰謝料などの損害賠償金が減額される可能性はあります。 以下、高齢者の交通事故で争点となりやすい過失割合と素因減額について、それぞれ詳しくみていきましょう。

高齢者の交通事故で争点となる「過失割合」

高齢者の交通事故で争いとなりやすいのが過失割合です。 過失割合とは、加害者と被害者に事故の責任がどの程度あるのかを数値で表したものです。 被害者に過失割合がつくと、その割合に基づいて損害賠償金が減額されてしまいます(過失相殺)。

65歳以上の高齢者が被害者の場合、過失割合が有利に修正されることがある

道路上では、事故に遭ったときに大きな被害を受けやすい歩行者や自転車は「交通弱者」といわれ、その中でも、判断能力や行動能力が低い高齢者は特に保護する必要が高いとして、過失割合が5~10%ほど低く修正されることが多いです。

事故状況を客観的に証明する証拠が必要

相手方から提示された過失割合が妥当かを見極め、納得できない場合は修正を求めることになります。 そのために、事故状況を客観的に示す、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像、目撃者の証言などの証拠を集める必要があります。 交通事故の過失割合について、以下ページで詳しく解説しています。あわせてご参考ください。

高齢者だと「素因減額」を主張されやすい

高齢者の交通事故では、相手方保険会社から素因減額を主張されることがあります。 素因減額とは、被害者の事故前から有する持病・既往症や、心理的要因、身体的特徴といった素因が引き金となって事故の損害が発生・拡大したと考えられる場合に、素因が関与している部分を損害賠償金から差し引くことです。

高齢者の場合、骨粗鬆症を理由に素因減額が主張されやすい

骨粗鬆症は骨密度が低下して骨がもろくなる病気で、高齢者によくみられる症状です。 そのため、相手方から「骨粗鬆症が骨折の原因だ」と主張されやすくなります。

骨粗鬆症を理由に素因減額が主張されたら?

骨粗鬆症を理由に、ただちに素因減額が認められるわけではありません。事故の状況や同年代の骨密度と比較しながら、骨粗鬆症が疾患に相当するものかどうかで判断されます。 したがって、過去の裁判例や医学的な根拠に基づいて反論していくことになります。 交通事故の素因減額について、以下ページで詳しく解説しています。あわせてご参考ください。

交通事故で請求できる慰謝料と相場

交通事故の被害者が受けた精神的苦痛を金銭で賠償してもらう慰謝料は、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3種類があります。

【慰謝料の種類】
入通院慰謝料 事故による怪我の治療で、入院・通院した場合に請求できる慰謝料。
後遺障害慰謝料 事故による後遺症が、後遺障害に認定された場合に請求できる慰謝料。
死亡慰謝料 事故で被害者が亡くなった場合に請求できる慰謝料。

慰謝料の計算は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3つの基準によって慰謝料の金額が大きく変わります。

【慰謝料を計算する3つの基準】
自賠責基準 自賠責保険が算定に用いる基準。
3つの基準の中で、最も低額であることが多い。
任意保険基準 任意保険会社が算定に用いる基準。
詳細は非公開だが、自賠責基準と同額かやや高額であることが多い。
弁護士基準 裁判所や弁護士が算定に用いる基準。
過去の裁判例をもとに設定されている。基本的に、3つの基準の中で最も高額。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、被害者の年齢に関係なく、入通院期間や実際の通院日数、怪我の症状によって算定できます。 以下表は、入院せずに月10日通院した場合の、通院期間ごとの慰謝料相場です。 同じ通院期間・日数でも、弁護士基準の慰謝料額の方が高額になります。

【入院なし・月10日通院した場合の入通院慰謝料の相場】
通院期間 自賠責基準 弁護士基準
1ヶ月
(実通院日数10日)
8万6000円 軽症時 19万円
重症時 28万円
2ヶ月
(実通院日数20日)
17万2000円 軽症時 36万円
重症時 52万円
3ヶ月
(実通院日数30日)
25万8000円 軽症時 53万円
重症時 73万円
4ヶ月
(実通院日数40日)
34万4000円 軽症時 67万円
重症時 90万円
5ヶ月
(実通院日数50日)
43万円 軽症時 79万円
重症時 105万円
6ヶ月
(実通院日数60日)
51万6000円 軽症時 89万円
重症時 116万円

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、被害者の年齢に関係なく、認定された後遺障害等級によって相場が決められています。 以下表は、後遺障害等級ごとの慰謝料相場です。 同じ等級でも、弁護士基準の慰謝料額の方が高額になります。

【介護を要する後遺障害の場合】
後遺障害等級 自賠責基準 弁護士基準
1級 1650万円(1600万円) 2800万円
2級 1203万円(1163万円) 2370万円
【介護を要さない後遺障害の場合】
後遺障害等級 自賠責基準 弁護士基準
1級 1150万円(1100万円) 2800万円
2級 998万円(958万円) 2370万円
3級 861万円(829万円) 1990万円
4級 737万円(712万円) 1670万円
5級 618万円(599万円) 1400万円
6級 512万円(498万円) 1180万円
7級 419万円(409万円) 1000万円
8級 331万円(324万円) 830万円
9級 249万円(245万円) 690万円
10級 190万円(187万円) 550万円
11級 136万円(135万円) 420万円
12級 94万円(93万円) 290万円
13級 57万円 180万円
14級 32万円 110万円

()は旧基準の金額であり、2020年3月31日以前の事故に適用

後遺障害とは?

交通事故の怪我が完治せずに、症状固定後も残った後遺症のうち、日常生活・社会生活に支障をきたすなどの要件を満たしたものを、後遺障害といいます。 後遺障害等級認定の申請をすると、後遺症が後遺障害に該当するかどうかの判断がなされます。

後遺障害等級とは?

後遺障害を、部位・症状によって14段階の等級に区分したものです。1級が最も重篤な症状で、14級が最も軽い症状です。 認定された等級が1級に近いほど、慰謝料は高額になります。

死亡慰謝料

死亡慰謝料は、計算に用いる基準によっては、高齢であることが金額に影響することがあります。 事故で被害者が亡くなると、家族は計り知れない精神的苦痛を受けることになるため、被害者本人の慰謝料以外に、家族に固有で認められた慰謝料=近親者の慰謝料を請求することが可能です。 以下表は、自賠責基準と弁護士基準の死亡慰謝料の相場です。 算定に考慮される要素は異なりますが、比較すると弁護士基準の方が高額であることがわかります。

自賠責基準の死亡慰謝料の相場

自賠責基準では、近親者の人数によって相場が決まっています。 そのため、被害者本人の慰謝料と近親者の慰謝料が別枠で設定されています。

【自賠責基準の死亡慰謝料】
本人の慰謝料 遺族の慰謝料
400万円 【遺族1名】   +550万円 【被扶養者がいる場合】
+200万円
【遺族2名】   +650万円
【遺族3名以上】 +750万円

2020年4月1日より前に発生した事故の場合は旧基準が適用されます

弁護士基準の死亡慰謝料の相場

弁護士基準では、生前の被害者が家庭でどのような役割を担っていたかによって相場が決まっています。 そのため高齢者が被害者の場合、家庭の生計を支える一家の支柱と比べると、慰謝料は数百万円低くなっています。

【弁護士基準の死亡慰謝料】
家庭内の立場 慰謝料
一家の支柱 2800万円
配偶者、母親 2500万円
そのほか(独身、高齢者など) 2000~2500万円

高齢者が慰謝料以外に請求できる損害賠償

高齢者が事故に遭ったとき、相手方に請求できる損害賠償は慰謝料だけではありません。 治療にかかった治療関係費や、被害者が亡くなられた場合は葬儀関係費が請求できます。 代表的な損害賠償の項目は次のとおりです。

【交通事故の代表的な損害賠償項目】
項目 概要
治療関係費 診察料・手術費・投薬料など、治療にかかった費用
入院雑費 寝具・衣類・電話代など、入院に必要な雑費
入通院費用 入通院にかかった交通費や宿泊費など
付添看護費 入通院に付添が必要な場合に請求できる費用
装具・器具購入費 車いすなどの装具・器具を購入した費用
家屋・自動車改造費 事故後の被害者の日常生活への支障を排除するための費用
将来の介護費 将来にわたって介護が必要な場合に請求できる費用
葬儀関係費 火葬費用など、葬儀にかかった費用
休業損害 事故で休業せざるを得なくなって減ってしまった収入・利益
逸失利益 事故がなければ得られたはずの将来の収入・利益

高齢者だと休業損害は認められない?

高齢者の場合も、休業損害が認められる可能性はあります。 休業損害とは、事故による休業で減ってしまった収入のことです。 現在は高齢でも就業して収入を得ていらっしゃる方も多く、事故で収入が減ってしまった場合は休業損害の請求が可能です。

無職または年金受給者の場合、休業損害が認められない可能性がある

無職者または年金受給者の場合、事故で収入が減ったとはいえないため、休業損害は基本的に認められないでしょう。 もっとも、無職であっても就労する意思・能力と就労の見込みがある場合には、休業損害が認められる可能性もあります。 交通事故の休業損害について、以下ページで詳しく解説しています。あわせてご参考ください。

高齢者でも家事に従事していた場合は認められる

高齢者の方でも、家事従事者であれば、休業損害が認められます。 自分以外のだれかのための家事労働は経済的な価値があると考えられていて、高齢の主婦・主夫の方も、事故で家事労働ができなくなったときには、休業損害を請求することができるのです。

高齢の家事従事者の場合、休業損害が減額される可能性がある

高齢の主婦・主夫の方は、自分のために家事をする割合が多かったり、加齢によって労働量が減ったりして、若年の主婦・主夫と比べて休業損害が減額される可能性もあります。

高齢の家事従事者の場合、休業損害が認められないケースもある

一人暮らしの高齢の方は、だれかのために家事労働しているとはいえないので、休業損害は認められないでしょう。 もっとも、一人暮らしであっても、家族の介護や面倒をみている場合は、休業損害が認められることもあります。

高齢である主婦の休業損害について争われた判例

【東京地方裁判所 平成28年6月29日判決】

<事案の概要>

被告の運転する事業用大型乗用自動車(以下被告車両)に乗車していた原告(82歳)が、被告車両が急ブレーキをかけた際に、バランスを崩して転倒したために負傷し、高次脳機能障害の後遺障害を残したため、被告と被告会社に対し賠償を請求した事案です。

<裁判所の判断>

本事案の主な争点は原告に生じた損害で、休業損害の算定方法についても問題になりました。 原告は事故当時長男夫婦と同居し、長男夫婦のために家事をしていた家事従事者でした。しかし、82歳という年齢で長男夫婦と同居していたという状況を鑑みると、原告が行っていた家事に係る休業損害について、家事従事者の通常の算定基準となる女子の全年齢平均賃金を用いることは相当でないと判断されました。 裁判所は、具体的には、賃金センサス女性70歳以上平均賃金年額283万5200円の8割である、年額226万8160円が相当であると判示しました。

高齢者でも逸失利益はもらえるの?

高齢者の場合も、逸失利益をもらうことはできます。 逸失利益とは、事故に遭わなければ被害者が得られたはずの将来の収入のことです。 事故で将来の収入が減ってしまった方はもちろん、家事従事者や年金受給者は、逸失利益が認められる可能性があります。

逸失利益は2種類ある

交通事故の逸失利益は、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益があります。

後遺障害逸失利益 後遺障害が残ったことで、事故前と同じように働けなくなって、収入が減ってしまった場合に請求できる逸失利益。
死亡逸失利益 事故によって被害者が亡くなってしまったことで、収入を得られなくなった場合に請求できる逸失利益。

高齢者の逸失利益は低く見積もられやすい

高齢者の場合は収入を得られる期間が若者よりも短いため、金額が低くなりがちです。 また、逸失利益の算定では67歳までを就労可能年齢とされています。 事故当時67歳を超えている場合、就労できなくなった年数の考え方が通常とは異なる点にも注意が必要です。 交通事故の逸失利益について、以下ページで詳しく解説しています。あわせてご参考ください。

無職だった場合

高齢者が事故当時無職だった場合、逸失利益は認められないことが多いです。 もっとも、被害者に就労する意思・能力があって、事故に遭わなければ再就職して収入が得られた可能性を立証できれば、逸失利益が認められる可能性があります。 これは、被害者が事故当時67歳を超えていた場合も同様です。 67歳以降も就労する可能性が高い、家事労働に従事する可能性が高い場合は、逸失利益を請求できることがあります。

年金収入のみの場合

年金収入のみの高齢者の場合、逸失利益はもらえるのでしょうか? 後遺障害逸失利益と死亡逸失利益で、それぞれみていきましょう。

●後遺障害逸失利益
後遺障害が残ったとしても年金の受給金額に影響するとはいえないので、基本的に後遺障害逸失利益は請求できないでしょう。
●死亡逸失利益
被害者が事故当時すでに年金を受給していた場合や、年金受給直前の場合は、被害者の相続人が死亡逸失利益を請求できることがあります。
なお、対象となる年金・ならない年金があるので注意が必要です。

対象となる年金 対象外の年金
  • 国民年金
  • 厚生年金
  • 共済年金
  • 障害年金
  • 老齢基礎年金
  • 退職年金 など
  • 遺族年金
  • 国民年金、厚生年金、共済年金などのうち「加給年金」として受け取っていた金額

高齢配偶者の介護の必要性を主張し、休業損害及び逸失利益を約618万円増額できた事例

当法人の弁護士が高齢配偶者の介護の必要性を主張した結果、休業損害及び逸失利益が大幅に増額した解決事例をご紹介します。

<事案の概要>

ご依頼者様(女性・70歳前後)は、乗車していたバスが事故を起こしたために負傷されました。 事前認定の結果、後遺障害等級12級13号の認定を受け、相手方から約334万円の賠償金が提示され、これが適切かどうか当法人にご相談いただきました。

<弁護士の活動>

相手方の提示額は、休業損害及び逸失利益が非常に低い内容でした。 弁護士は、ご依頼者様は高齢の夫婦二人暮らしで、事故により家事労働と配偶者の介護が十分にできなくなり、配偶者の介護は10年で終わると限らないので労働能力喪失期間を平均余命ベースで扱うべきと主張しました。

<結果>

当方の主張が受け入れられ、休業損害及び逸失利益が大幅に増額し、賠償金約952万円を支払ってもらう内容で示談が成立しました。

高齢者・老人の方が交通事故に遭われた場合は弁護士にご相談ください

高齢者が交通事故に遭われたとき、相手方の保険会社は「高齢であること」を理由に、相場よりも低い慰謝料を提示してくることがあります。 弁護士は、こうした保険会社の提案を根拠に基づいて反論し、弁護士基準で算定した金額で交渉できるので、慰謝料の増額が期待できます。 とはいえ、費用面でご不安な方も多いかと思います。 ご自身やご家族が弁護士費用特約に加入していれば、保険会社が費用を負担してくれるので、一度確認してみましょう。 高齢者の方は若い人と比べ、同じ交通事故に遭った場合にも重症化しがちで、示談交渉が複雑になることが多いです。 弁護士であれば、相手方との示談交渉や煩雑な手続を代行することが可能です。 まずはお気軽に、弁護士法人ALGにご相談ください。

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