交通事故で腕が上がらなくなったら後遺障害等級認定されるのか?
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
交通事故に遭った後、「今までのように腕が上がらない」という症状に悩まされる方がいらっしゃいます。今まで当たり前のようにできていたことが、事故をきっかけにできなくなってしまうというショックや苦痛は、計り知れません。 ここでは、交通事故後に「今までのように腕が上がらない」という症状が出た場合の対処方法や懸念される後遺障害、請求可能な慰謝料等について解説していきます。
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目次
交通事故後に腕が上がらなくなった時にするべきこと
「腕が上がらない」という症状が出た場合は、速やかに医師のいる病院(整形外科)に行きましょう。肩まわりを損傷しているおそれがあります。交通事故に起因した腕が上がらないという症状は、事故の衝撃で地面等に肩を強く打ちつけることで発症するため、自転車やバイク等、身体がむき出しの状態で事故に遭った際に受傷するケースが多いようです。 肩は、医学用語でいう「上肢」に含まれます。上肢は、上腕、前腕、手指、それらを繋ぐ、肩関節、肘関節、手関節、指関節から成ります。その中でも肩まわりの損傷は、肩関節で繋がれている、鎖骨、肩甲骨、上腕骨の「骨折」や「脱臼」、「周辺組織の損傷」のことを指します。 交通事故に遭った後、「いつもと違う」「被害に遭ったご家族の様子がおかしい」といった異変は、その根源となる傷病を発見するサインです。適切な治療や賠償を受けるためにも、交通事故との因果関係は非常に重要ですので、できるだけ早い段階で病院に行くようにしましょう。
病院で治療を受ける 交通事故被害に遭ったら、外傷や自覚症状の有無にかかわらず、病院に行くことをおすすめします。なぜなら、受傷直後に症状が出る場合もあれば、何日か経過してから発症する場合もあり、共通して重要なのは「交通事故との因果関係」であるからです。時間経過とともに因果関係の立証は難しくなるので、できるだけ早い段階で医師の診察と必要検査を受けましょう。 一般的に、骨折等の骨に異常がある場合はレントゲンやCT、骨折がなくても痛みや何らかの異常がある場合はMRIや超音波検査を受けます。肩まわりの損傷には、「骨折」「脱臼」「周辺組織の損傷」があり、それぞれ併発するケースもあるため、医師の指示に従って必要な検査を受けるようにしましょう。 治療方法としては、軽度の骨折は患部をギプス等で固定する保存療法、重症の場合は手術が施され、痛みが強い場合は鎮痛剤等による緩和療法を伴うことがあり、いずれもリハビリを要します。脱臼の場合は、整復の施術が必要です。周辺組織の損傷は、程度によって緩和療法とともに温熱療法やリハビリ、保存療法や手術が施されます。
交通事故後に腕が上がらない原因
「腕が上がらない」という症状には、痛みが伴って上げられないタイプと、腕を上げようと試みてもそれ以上に上がらないタイプがあります。痛みの感じ方には個人差がありますが、いずれにしても腕が上がらないという症状がある場合は、肩まわりを損傷しているおそれがあります。 交通事故に遭った後、いつもどおり腕が上がらないという異常を感じたら、その原因となる傷病を発症しているサインであると気づくことが重要です。 腕が上がらないという症状は、具体的に「骨折」「脱臼」「腱板損傷」を発症しているおそれがあります。以降、それぞれの特徴を紹介していきます。
骨折
上肢の骨折には、鎖骨骨折・肩甲骨骨折・上腕骨骨折等があり、骨折部位により症状が様々です。また、骨折と一言にいっても、単純に完全に折れたものだけではなく、ヒビが入ったもの、バラバラに砕けたようなもの等、その程度は様々です。 交通事故後に腕が上がらなくなる骨折の種類としては、鎖骨・肩甲骨・上腕骨部分の、閉鎖骨折(単純骨折)と開放骨折(複雑骨折)が挙げられます。2つの明確な違いは、折れた骨が皮膚内におさまっているか否かという点です。皮膚を突き破る開放骨折は、筋肉や靱帯、神経といった他の組織の損傷を伴っている懸念があります。 また、骨折から派生するのが「関節拘縮」です。骨折の治療のためにギプス固定等を長期間行うことにより、軟部組織である筋肉が硬直し可動域制限が生じてしまう疾患です。下記の記事では、骨折に関する詳しい解説をしていますので、併せてご覧ください。
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脱臼 脱臼とは、外部から強い衝撃を受けたことで繋がっていた関節同士が外れてしまう症状で、鎖骨等の肩回りで発症するケースが多いです。関節の一部が外れてしまう「亜脱臼」と、関節が完全に外れてしまう「完全脱臼」があり、発症すると激痛や腫れを伴うことがあります。肩の前方に脱臼するタイプと後方に脱臼するタイプがあり、一度経験すると「脱臼ぐせ」になる場合があります。 受傷した際は、できるだけ早く精密検査を受け、整復しリハビリを行う必要があります。また、骨折を伴うような重症の場合は、手術を行うケースもあります。
腱板損傷 腱板とは、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)という4つの筋肉の腱の集合体のことで、肩甲骨と上腕骨を繋ぐ役割を担っています。腕を動かすうえで重要な組織の一つである腱板が、交通事故の衝撃で断裂してしまうことを「腱板損傷」といいます。 腱板損傷の症状は、腱板断裂の程度によって眠れないほどの痛みを伴う場合もあり、腕が上がらなくなってしまったり、動かせる範囲に制限が生じたりします。 また、腱板は軟部組織であるため、主に骨の異常を検査するレントゲンでは所見が困難であることが特徴的です。そのため、事故後に腕が上がらないというサインがあった場合には、できるだけ早い段階で超音波やMRI等の精密検査を受けましょう。
下記の記事では、腱板損傷について詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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腕が上がらない時の後遺障害と慰謝料
上述した症状が治りきらず、腕が上がらずに後遺症として残ってしまう場合があります。残ってしまった症状が、
- 「交通事故に起因している」
- 「受診した画像検査等によって他覚的所見があるといえる」
- 「受傷直後から一貫した自覚症状の訴えがある」
といった条件を満たす場合、後遺障害として認められ、後遺障害に関する賠償を請求できます。中でも後遺障害慰謝料額は、後遺障害等級ごと、算定基準ごとによって異なります。 腕が上がらないことが後遺障害として認められる可能性のある症状として、「可動域制限」、「神経症状」、「変形障害」が挙げられます。それぞれの特徴や後遺障害慰謝料をみていきましょう。
可動域制限
交通事故に起因した肩まわりの損傷により、腕を動かせる範囲に制限が生じてしまうことを「可動域制限」といいます。腕がまったく動かない場合や動かせる範囲が狭くなる場合等、症状の程度によって後遺障害等級が変わります。 肩関節の可動域制限は、骨折部分の癒合不全や関節拘縮、筋肉や靱帯といった軟部組織の損傷等によって発症します。詳しくは下記の記事にて解説していますので、ぜひご覧ください。
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請求できる慰謝料
等級 | 自賠責基準※1 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級4号 | 1150万円 | 2800万円 |
5級6号 | 618万円 | 1400万円 |
6級6号 | 512万円 | 1180万円 |
8級6号 | 331万円 | 830万円 |
10級10号 | 190万円 | 550万円 |
12級6号 | 94万円 | 290万円 |
※1:自賠責基準は新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
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神経症状
交通事故に起因した肩まわりの損傷により、痛みが伴って腕が上げられない場合、「神経症状の残存」が後遺障害として認められる可能性があります。 「受診した画像検査等によって他覚的所見があるといえる」か否かによって、獲得できる等級が異なるため、事故直後から各精密検査の受診は怠らないようにしましょう。また、他覚的所見が困難であっても、神経学的検査や事故直後からの一貫した自覚症状の訴えによって、後遺障害として認められる可能性もありますので、通院方法には十分留意することが重要です。
請求できる慰謝料
等級 | 自賠責基準※2 | 弁護士基準 |
---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
※2:新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
変形障害
肩まわりの骨折や脱臼により、骨癒合がうまくいかず関節ではないところが曲がってしまう「偽関節」や、癒合に至らない「癒合不全」が残ってしまうことを変形障害といいます。 運動障害や可動域制限、痛みを伴うケースも多く、補正具を必要としたり、重症の場合は再手術を施したりすることもあります。 後遺障害として認定されるには、他覚的所見が必須となりますので、交通事故との因果関係を立証するためにも、受傷直後から症状固定に至るまで画像検査を受診するようにしましょう。
請求できる慰謝料
等級 | 自賠責基準※3 | 弁護士基準 |
---|---|---|
第7級 | 419万円 | 1000万円 |
第8級 | 331万円 | 830万円 |
第10級 | 190万円 | 550万円 |
第12級 | 94万円 | 290万円 |
※3:新基準を反映しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
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腕が上がらなくなってしまった時の慰謝料の計算例
では、実際どのように慰謝料が算出されるのか、例を用いて計算してみましょう。 3種類の算定基準のうち、自賠責基準と弁護士基準で算出しますので、その結果の差額にもご注目ください。
例:【入院期間180日(9ヶ月)・通院期間300日(10ヶ月)・実通院日数280日・後遺障害等級10級10号(可動域制限)】
自賠責基準
自賠責基準の入通院慰謝料の計算式は、日額4300円※4を対象日数に乗じて算出します。対象日数は、「入院期間+通院期間」と「(入院日数+実通院日数)×2」のどちらか数字が小さいほうを採用します。また、自賠責基準の傷害部分における補償額は、120万円までと制限があることが特徴です。算出した入通院慰謝料に、認定された後遺障害等級に該当する後遺障害慰謝料を足した金額が「慰謝料」となります。
入通院慰謝料:4300円※4×(180日+300日)=206万4000円
※対象日数は、「入院期間+通院期間」を採用します。
※補償上限額120万円を超過するため、120万円とします。
後遺障害慰謝料:190万円※5
慰謝料計:120万円+190万円=310万円
※4:令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準の日額4200円が適用されます。
※5:新基準で算出しています。令和2年4月1日より前に発生した事故の場合は、旧基準が適用されます。
弁護士基準
弁護士基準の慰謝料は、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称赤い本)を参照します。入通院慰謝料は、受傷した怪我によって、入通院慰謝料別表Ⅰ(通常の怪我の場合)または別表Ⅱ(むちうち等他覚所見のない比較的軽傷の場合)を参照し、期間に該当する金額が算出されます。これに、後遺障害慰謝料を足した総額が「慰謝料」となるのは、自賠責基準の扱いと同様です。
入通院慰謝料:330万円(※赤い本 別表Ⅰ 通常の怪我の場合を参照)
後遺障害慰謝料:550万円
慰謝料計:330万円+550万円=880万円
自賠責基準310万円と弁護士基準880万円では、570万円の差があることが判明します。あくまでも相場であるため、交渉次第で慰謝料金額は増減しますが、弁護士基準で算出すると明らかに高額な慰謝料を請求できることがおわかりいただけると思います。
交通事故で腕が上がらなくなったら
日常生活において、腕や肩を使用する機会は非常に多くあります。肩まわりは自由に動かせる範囲が広いですが、受傷しやすく、仕事や生活に支障をきたすことが多い部位であるといえるでしょう。交通事故後に「腕が上がらない」という症状は、非常に重要なサインです。 また、被害者側は、怪我の治療中に相手方保険会社とやりとりをしなければならない機会があります。負担だけではなく、正しい判断ができるかどうかといった不安も伴うでしょう。 そんなとき、弁護士に相談してみませんか?弁護士法人ALGは、交通事故案件の専門チームを設けているため、示談交渉を一任できます。また、医療過誤事件を専門とするチームも併設しているため、連携しながら適切な通院方法や検査項目のアドバイス、後遺障害等級認定のための必要書類の精査等を安心して任せられます。 敷居が高いイメージを抱かれるかもしれませんが、コスト面は弁護士費用特約で負担なくご利用いただけ、弁護士に直接会うまでの小さな疑問も専門スタッフが丁寧にご案内しますので、ぜひお気軽にお問い合せください。
腕が上がらないことにより後遺障害が認められた裁判例
ここで、腕が上がらないことにより後遺障害が認められた裁判例を紹介します。
【福井地方裁判所 平成29年3月3日判決】
事故の態様は、原告車両が信号待ちをしていたところ、被告車両が後方から追突したというものでした。 原告は、事故の衝撃により、頚椎捻挫、腰部挫傷(腰椎椎間板ヘルニア)、左手挫傷(左小指伸筋腱脱臼)等を受傷しました。損害内容において、左肩の可動域制限をめぐり「左肩の棘上筋腱深層部損傷と交通事故との因果関係」が争点となりました。 裁判所は、左肩の可動域制限について、レントゲンやMRI等では異常が認められなかったものの、原告が「受傷時から左肩痛を訴えていたこと」、「左肩痛残存及び関節可動域制限の原因として、棘上筋腱の深層部の損傷程度は生じたものという医師による診断があったこと」等を考慮し、左肩関節可動域制限を後遺障害として認め、腰痛及び左小指中手指節関節鈍痛等と併せて、併合第12級が相当と判断しました。 その結果、被告に対し、原告の損害として後遺障害慰謝料290万円を含む、総額723万7477円の賠償を命じました。
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