【後遺障害】労災と自賠責の両方に申請できる?
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
業務中や通勤途中に交通事故に遭った場合、加害者が加入する自賠責保険のほかに労災保険を適用できる可能性があります。 しかし、そもそも労災特有の支給金や内容を知らず、申請自体されないケースが多い傾向にあります。 特に後遺障害が残るような事故の場合は労災特有の支給があるため、労災の支給内容について把握しておくことが重要です。 そこで本記事では、「労災と自賠責の後遺障害等級申請」について着目し、併用する際の注意点などを交えて詳しく解説していきます。
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目次
交通事故の損害賠償は労災と自賠責を併用できる?
交通事故の損害賠償は、労災と自賠責を併用することができます。 しかし、重複する部分の補償については二重取りすることができません。 そのため、労災と自賠責を併用して請求できる場合でも、同じ損害項目については二重で支給されないように調整される仕組みになっています。このことを“支給調整”といいます。 反対に、労災保険と自賠責保険がそれぞれ独自の名称で異なる範囲の補償内容を定めているため、そもそも支給調整されない項目もあります。 たとえば、労災から障害(補償)給付が支払われた場合、全額が支給調整の対象とはなりません。 基本的には、民事損害賠償における「逸失利益」と障害(補償)年金・障害(補償)一時金との間で調整されることになります。
支給調整の方法
労災と自賠責で支給される項目が被る場合には、支給調整のため、自賠責の基準と労災給付額とを比較して、被っている範囲において支給されません(これを「損益相殺」といいます)。 また、仮に何らかの理由で支給されたとしても、返金の必要があります。 ただし、労災給付と同一損害項目間でしか損益相殺を行えませんので、労災では給付されない入通院慰謝料や自賠責から補償されない特別支給金等については損益相殺が行われません。
後遺障害等級認定で労災・自賠責から支払われる費目
後遺障害等級認定されると、労災から次の費目が支払われます。
- 障害(補償)年金
- 障害(補償)一時金
- 障害特別支給金、障害特別一時金
自賠責からは後遺障害慰謝料が後遺障害等級に応じて支払われますが、これらは同じ性質のように思えて全くの別ものです。 特に支給調整されると勘違いしやすい費目が、「障害特別支給金・障害特別一時金」です。 これらは労災独自の支給金となるため、支給調整されずにそのまま受け取ることができます。
後遺障害等級申請における自賠責と労災の優先順位
自賠責と労災のどちらを先に後遺障害等級申請するかについては、被害者の意思に任せられています。 しかし、実務上では自賠責から先に申請を行うケースがほとんどです。 どちらを先に申請した方が有利になるのか一概にはいえないため、被害者の状況次第ではありますが、次のような場合には労災を優先した方がよいでしょう。
- 自身の過失割合が7割以上の場合 →(理由:自賠責では過失相殺されるため)
- 長期の治療が必要な場合 →(理由:自賠責の補償は、治療費を含め上限120万円であるため)
- 加害者が無保険、自賠責保険のみ加入している場合 など
加害者が無保険、自賠責保険のみ加入している場合などは、十分な補償がなされない可能性があります。 そのため、このような場合には労災から先に申請を行った方が望ましいといえます。
労災と自賠責の後遺障害認定の違い
自賠責の後遺障害認定は、基本的に労災の後遺障害認定基準と同じものが用いられています。 そのため、後遺障害等級についても双方1~14級までの等級に分類されています。 しかし、労災と自賠責の後遺障害認定には、以下のような違いがあります。
- 自賠責と労災は全く別の保険制度である
- 労災は労働者の労働能力の補償、自賠責は損害賠償における適正な賠償という観点である
- 労災は労働基準監督署、自賠責は自賠責損害調査事務所で互いに独立した認定機関である など
自賠責は交通事故の被害を補填する制度であるのに対し、労災は業務・通勤災害の被害を補填する制度であるため、労災にとって交通事故はその一部に過ぎません。 その他の労災と自賠責の違いについて詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
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労災と自賠責で認定結果が一致しない原因
どちらも後遺障害認定基準は基本的に同じですが、認定までの過程において違いが生じていることが考えられます。 下表にて、労災と自賠責の違いをみてみましょう。
労災 | 自賠責 | |
---|---|---|
【申請先】 | 勤務先を管轄する労働基準監督署 | 加害者側の自賠責保険会社 |
【認定機関】 | 勤務先を管轄する労働基準監督署 | 自賠責調査事務所 |
【申請書類】 | 労災用の後遺障害診断書、障害(補償)給付支給請求書など | 診断書、診療報酬明細書、後遺障害診断書、画像所見など |
【審査方法】 | 医師による面談など | 書面審査 |
このように、労災と自賠責では認定機関が違い、申請する際に提出する書類や審査方法が異なります。 このような違いから、「労災は労災、自賠責は自賠責」という内容で認定結果が一致しない認定結果通知書が届くことがあります。
一致しない場合の対処法
自賠責では「異議申立て」、労災では「審査請求」という制度が設けられているため、後遺障害等級の認定結果に納得がいかない場合には、これらの制度を利用して不服を申し立てることができます。 しかし、一度認定された結果を覆すためには、それ相応の新たな証拠や資料が必要となります。 個人で行うことは決して容易ではないため、法律の専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。 異議申立てや弁護士依頼のメリットについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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労災と自賠責の後遺障害に関する裁判例
ここで、労災と自賠責で認定された後遺障害等級が異なる場合の裁判例を紹介します。
【広島地方裁判所福山支部 平成30年6月21日判決】
<事案の概要>
被告運転の普通乗用自動車がスリップして対向車線側のガードレールと接触した直後に、対向車線を走行していた原告運転の普通乗用車と衝突した交通事故です。 原告は本件事故により、頚椎捻挫および脳脊髄液漏出症による後遺障害が残存し、労災において9級7号の2「神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当すると判断されました。 一方、自賠責においては、頚椎捻挫について後遺障害14級9号が認められ、脳脊髄液漏出症については本件事故との因果関係が認められないため非該当とされました 原告は労災で認められた後遺障害等級に基づいて、被告へ損害賠償請求を行いましたが、被告は、仮に認めるとしても自賠責と同様に14級9号が相当であると主張したため争いとなりました。
<裁判所の判断>
裁判所は、原告には一度に起きていられる時間が短いという障害が生じており、日常生活が制限されているから、神経系統の機能または精神に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されているものといえるので、自賠法上の後遺障害等級9級10号に該当すると判断しました。 なお、自賠責では原告の後遺障害を14級9号と認定しているが、自賠責は脳脊髄液漏出症と本件事故との因果関係を認めておらず、前提が異なっていることから採用できないとしました。 この裁判例では、労災と自賠責で違う後遺障害等級が認定された事案ついて、労災の認定結果に沿う判断がなされています。
労災や自賠責の両方へ後遺障害の申請をお考えの場合は弁護士にご相談ください
交通事故事案において、自賠責と労災の両方へ後遺障害等級申請できるということを知らずに事件を終了されてしまう被害者の方が多いように見受けられます。 後遺障害等級が両方の保険で認められると、労災から支給調整されない給付金を受け取れるなどのメリットが数多くあります。 しかし、どちらを先行させることが自身にとってよいのか、判断に迷われる方もいらっしゃるでしょう。 そのような場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。 弁護士であれば、個人では難しい労災・自賠責両方への後遺障害申請手続きから加害者側との示談交渉まで幅広いサポートを行えます。 無料相談も承っておりますので、お困りの際は私たち弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。
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