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交通事故により遷延性意識障害となった場合の後遺障害や賠償金について詳しく解説

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

交通事故の被害者が 遷延性意識障害 (せんえんせいいしきしょうがい) 、いわゆる「植物状態」となった場合、被害者の方だけでなく、ご家族の方にも、大きな精神的・身体的・経済的負担が生じていることでしょう。 介護等に伴う経済面における負担を少しでも軽減するためには、適切な損害賠償を受けることが大切です。 本ページでは、遷延性意識障害における後遺障害や遷延性意識障害で請求できる損害賠償金などについて詳しく解説していきます。

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交通事故による遷延性意識障害とは?

遷延性意識障害 (せんえんせいいしきしょうがい) とは、交通事故による頭部外傷などが原因で3ヶ月以上にわたって自力移動や排せつ、意思疎通等ができない状態(=植物状態)をいいます(詳しくは後で説明します。)。 遷延性意識障害は、交通事故による強い外力で広範囲にわたって脳が損傷することにより発症されるといわれています。 もっとも、生命を維持するために必要な脳の重要な部分は不完全ながら生きているため、命は保たれています。

遷延性意識障害と脳死の違い

遷延性意識障害(植物状態)と誤解されやすいのが“脳死”です。 脳死の場合、すべての脳機能が停止しているため、自発呼吸は止まり、瞳孔は拡大したままになります。脳死の場合には、人工呼吸器や薬剤などで心臓を動かし続けることができますが、すべての脳機能が停止していることから、人工呼吸等をやめると心臓が停止して死に至ります。 一方で遷延性意識障害の場合、考えたり記憶したりする大脳が損傷していますが、脳幹等の生命維持に必要な機能は生きている状態です。そのため、自発呼吸等はできます。また、遷延性意識障害の場合には、すべての脳機能が停止しているわけではないため、リハビリなどにより回復する可能性があります。 このように脳死と遷延性意識障害には大きな違いがあります。

遷延性意識障害の原因

遷延性意識障害は、頭部に強い衝撃を受けるなどして、大脳が広範囲で損傷することによって発症することがあります。 具体的には、頭部外傷などによって、脳挫傷、脳出血、びまん性軸索損傷(脳神経細胞の断裂等)が生じることで遷延性意識障害に至る場合があります。 交通事故に遭うと、事故の衝撃により頭部に衝撃が加わるほかにも、転倒するなどして頭部を地面に強く打ち付けるなどして、脳に大きなダメージを負う可能性があります。 頭部に強い力が加わった場合には遷延性意識障害に至る可能性がありますので、すぐに病院を受診してください。

遷延性意識障害の症状

遷延性意識障害の定義については、1972年の日本脳神経外科学会で以下の6項目を満たす状態に陥り、改善が見られないまま3ヶ月以上経過していることとされています。

  • 1. 自力で移動することができない
  • 2. 自力で食事ができない
  • 3. 便や尿を失禁してしまう
  • 4. 声は出せても意味のある発語ができない
  • 5. 意思疎通がほとんどできない
  • 6. 眼球はかろうじて動くが認識はできない

上記6項目が治療を行っているにもかかわらず、3ヶ月以上経過しても継続するような場合には遷延性意識障害(=植物状態)とみなされます。
なお、1ヶ月以上続く植物状態は「遷延性植物状態」と表記されることもあります。

遷延性意識障害は治る?

遷延性意識障害に有効な治療方法は、現在の医療技術では確立されていません。 家族の献身的な介護や脊髄後索電気刺激、脳深部電気刺激療法、音楽運動療法などで回復が見られたケースもありますが、回復する可能性は高いとはいえないでしょう。 そのため、基本的には現状維持を図り、被害者自身の自己治癒力による回復を待つことになります。

遷延性意識障害の治療方法
脊髄後索電気刺激 脊髄の硬膜外腔に電極を埋め込むなどして、弱い電流で脳を刺激するという治療方法です。
脳深部電気刺激 脳の深部を電気で刺激する治療方法です。
正中神経刺激法 手にある正中神経を電気で刺激する治療方法です。
迷走神経刺激法 頚部の迷走神経を電気で刺激する治療方法です。

遷延性意識障害の症状固定と予後

医学的には自力で移動することや食事ができないことなどの遷延性意識障害の定義である6項目が認められる状態が3ヶ月継続することで、遷延性意識障害を診断することができます。 そのため、医学的には3ヶ月経過した時点で症状固定を診断できるといえるでしょう。しかし、実際には1年以上の経過観察を経た上で症状固定と診断されるなど、症状固定の診断が慎重に行われることもあります。 なお、症状固定後は痰の吸引や酸素の吸入、床ずれ防止など24時間体制の常時介護が必要です。
しかし、症状固定後に入院を継続することが難しい場合があります。
このような場合には在宅介護や施設入所を検討する必要があります。ところが、在宅介護の場合には自宅をリフォームする必要や、施設入所の場合は入居費用がかかります。 介護に要する費用を確保するためには、“適切な後遺障害等級認定を受け、損害賠償金を受け取ること”が重要です。

遷延性意識障害で請求できる損害賠償金

遷延性意識障害で請求できる損害賠償金には、主に以下のようなものがあります。

  • 治療費
  • 交通費、付添人交通費
  • 付添看護費
  • 休業損害
  • 入通院慰謝料
  • 入院雑費
  • リフォーム代(改造費)など

また、後遺障害等級の認定を受けた場合には、「後遺障害慰謝料」「後遺障害逸失利益」を請求することもできます。 なお、遷延性意識障害が回復しない場合には、“成年後見人”を選任して代わりに手続きを行ってもらう必要があるでしょう。

後遺障害慰謝料について

遷延性意識障害で認定される可能性のある後遺障害等級は、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として別表第1の1級1号が多い傾向にあります。 1級1号の認定を受けた場合における後遺障害慰謝料の目安は、“自賠責基準で1650万円・弁護士基準で2800万円”です。
1~14級に分類されている後遺障害等級は、数字が小さいほど後遺症が重いものとされています。
そのため、1級1号はすべての後遺障害等級の中で最も重い等級であることから、後遺障害慰謝料等の損害賠償金額の目安が最も高額となっています。

《自賠責基準と弁護士基準の違いについて》
慰謝料の算定に用いられる基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があります。
主に使用されるのは自賠責基準と弁護士基準です。このうち弁護士基準を用いて算定した慰謝料額が他の基準による額よりも高額となる傾向があります。

逸失利益について

逸失利益 (いっしつりえき) とは、交通事故に遭わなければ将来得られたと考えられる収入やそのほかの利益のことをいいます。
逸失利益は、以下の計算式にて算出されます。

1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失率とは、後遺障害によって失う労働能力の割合です。遷延性意識障害の労働能力喪失率は1級の場合100%とされています。つまり、遷延性意識障害で後遺障害等級1級の認定を得た場合には、100%の割合で労働能力を失うものと考えられています。
そのため、逸失利益の請求金額はかなり高額となる傾向があります。
交通事故における逸失利益について、以下のページでは更に詳しく解説しております。
ぜひあわせてご覧ください。

その他に請求できる賠償金

遷延性意識障害が後遺障害として認定された場合には、後遺障害慰謝料や逸失利益のほかにも、下表のような費用を損害賠償請求することができます。

治療費 治療のためにかかった必要かつ相当な実費
通院交通費(付添交通費) 通院するためにかかった必要かつ相当な実費(通院に付添が必要だった場合には付添人交通費も請求できます)
付添看護費 介護や介助を要する場合にかかった費用
休業損害 仕事を休んだことで減収したことに対する損害
入通院慰謝料 医療機関への入院や通院を強いられたことによって生じた精神的苦痛に対する慰謝料
雑費(おむつやカテーテルなど) 介護のためにかかった必要かつ相当な実費
将来介護費 後遺障害のため将来にわたって介護が必要になった場合にかかる費用
自宅改造費・車改造費・引っ越し費用 重度の後遺障害のため自宅や車の改造が必要になった場合にかかる費用

なお、休業損害についてより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

損害賠償請求における成年後見人の選任について

成年後見人とは、精神上の障害によって事理弁識能力が常に欠ける方が不利益を受けないように、本人に代わって必要な契約を締結したり、財産の管理をしたりする代理人のことをいいます。 遷延性意識障害となった被害者は事理弁識能力を常に欠くと考えられるため、家庭裁判所に「成年後見人選任の申立て」を行い、成年後見人の選任をしてもらうことが必要となると考えられます。 通常、家族や親族が成年後見人となることが多いですが、示談交渉や裁判となる可能性などを踏まえて弁護士に成年後見人となってもらうと安心です。
また、成年後見開始審判の申立費用や成年後見人に支払った報酬金などは必要かつ相当な範囲で加害者側に請求することができます。

◇ 被害者が未成年の場合は?
親権者が既に法定代理権を持っているため、成年後見人を選任する必要はありません。

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遷延性意識障害の示談における注意点

平均余命が短いことを理由に減額を求められたら

遷延性意識障害になってしまった場合、将来にわたって必要となる介護費用や逸失利益も請求することが可能です。
被害者が生きている限り必要となる費用であるため、余命の長さが、金額に影響を及ばします。
遷延性意識障害の患者の平均余命は短い傾向にあり、およそ3年程度であると言われています。
そのため、賠償金の減額を図りたい加害者側の保険会社から、将来の介護費用や逸失利益について減額を求められる可能性があります。
しかし、裁判所など実務上では、一般的に平均余命で賠償額が計算されていますので、保険会社からの提示に安易に応じてはいけません。余命について争いになった場合は、弁護士への相談をご検討ください。

在宅介護による賠償金請求を拒否されたら

遷延性意識障害の患者は、医師から症状固定と判断された後は入院を継続することが困難となる場合があります。この場合、「在宅介護」もしくは「施設入所」の選択を迫られます。 ここで争点となりやすいのが“将来介護費”です。
在宅介護には、訪問介護費用のほか、家族による介護費用や自宅のバリアフリー化にかかる費用なども必要なため、施設入所よりも将来介護費が高額になる場合があります。
このことから、示談交渉相手となる加害者側の任意保険会社が支払う賠償額を抑えるために在宅介護による賠償金請求自体を拒否するおそれがあります。
在宅介護による賠償金を獲得するためには、在宅介護の必要性を立証することが必要不可欠です。
そのためには、交渉のプロであり法律の専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士であれば、在宅介護の必要性を立証するために尽力することが可能です。

遷延性意識障害の示談交渉を弁護士に依頼するメリット

遷延性意識障害は、後遺障害等級の中で最も重い等級を得る可能性が高い状態です。
それゆえ、被害者の生活に大きな影響を与えることから、請求できる賠償金は高額になることが予想されます。
そのため、保険会社は支払額を抑えようとして、示談交渉が難航し、示談するまでに長い年月を要することも少なくありません。
弁護士に依頼することで、弁護士基準で算定した適切な慰謝料を請求できるだけでなく、適切な後遺障害等級認定に向けたサポートを受けることができます。 そのほかにも、成年後見人や様々な手続きを一任することができ、被害者であるご家族の介護に専念することができます。このように、弁護士に依頼するメリットは多くあります。

交通事故による遷延性意識障害で示談金1750万円(既払額3312万円)を獲得した事例

賠償金額 提示前 ➡ 約1750万円
後遺障害等級 認定前 ➡ 1級1号
過失割合 80対20 ➡ 85対15
傷病名 遷延性意識障害

適切な後遺障害等級認定のサポートを受けたことで1級1号の後遺障害等級が認定されました。
また、15%の過失割合の修正や親族慰謝料等の加算を主張した結果、示談交渉においても当方の主張が認められ、約1750万円にて示談できた事例です。
示談交渉では、主に過失割合が争点となりました。
当初、相手方保険会社からは20%の過失があるとの主張を受けていましたが、当方にて15%の過失が相当であるとの主張を粘り強く続けたことで、ご依頼者様の過失割合は最終的に15%に抑えることができました。また、親族慰謝料やそのほかの損害項目においても全体的な増額交渉を行い、最終的に当方の主張が認められました。

交通事故で遷延性意識障害になってしまったら、後遺障害に詳しい弁護士にご相談ください

遷延性意識障害になると、被害者ご家族は気の許せない介護を要します。
被害者ご本人はもちろんのこと、ご家族の悲しみや苦しみは計り知れません。
それだけでなく、リフォームや施設入居費用など多額の費用を負担しなければならないため、経済的負担も大きいでしょう。
そのような中で保険会社とやりとりを行う負担は大きいと思います。また、示談交渉において、相手方の保険会社が適切ではない金額を提示してくるケースは少なくありません。 弁護士に依頼することで、保険会社とのやりとりを行う必要はなくなり、適切な後遺障害等級認定に向けたアドバイスを受けられるので、介護等に専念しやすくなります。また、弁護士基準による適切な慰謝料の請求もできます。 ぜひお気軽に私たち弁護士法人ALGにご相談ください。

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