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会社役員の休業損害|減収がなかった場合や計算方法について

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

「休業損害」とは、事故によるケガが原因で仕事を休んだために減ってしまった収入のことをいいます。
休業損害は賠償の対象になります。
しかし、交通事故の被害者が「会社役員」の場合、保険会社から“休業損害を認めない”といわれることがあります。 その理由は、会社役員の収入が役員報酬の場合、役員報酬は休業しても減額されないことがあるからです。 もっとも、会社役員の方でも休業損害を請求できる場合があります。 そこで本ページでは、会社役員の休業損害について、請求できるケースや具体的な計算方法などを解説していきます。 休業しても減収がなかった場合や、会社に損害が生じた場合についても、わかりやすくお伝えしていきますので、ぜひご参考ください。

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会社役員の休業損害は認められるのか

会社役員の方でも、休業損害が認められる可能性はあります。 休業損害は、交通事故が原因で労務に従事できなかったために減少した収入を事故による損害とするものです。いいかえると休業損害とは労務対価部分の減少に対する損害です。 したがって、役員報酬のうち、「労務対価部分」については、休業損害の請求が可能です。

《役員報酬》
労務対価部分 会社役員の労務の対価として支払われる部分
休業損害として請求しうる
利益配当部分 労務の有無に関係なく支払われるため事故による損害とは認められない

実際に減収が生じた場合

実際に、事故に遭って休業したことによって役員報酬が減ってしまった場合、休業損害の請求ができる可能性があります。その減少額が労務対価部分であると認定されやすいからです。 もっとも、役員報酬のうち、利益配当部分と労務対価部分の割合を明確に分けることがむずかしいケースもあります。このようなケースでは、会社の規模・利益状況、地位・職務内容、被害者の年齢・役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容・報酬などから、労務対価と評価される範囲が判断されます。 なお、労務対価の割合が判断できない場合は、賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の男女別平均賃金を参考に算定されることもあります。

営業損害が発生した場合

営業損害とは、「事故がなければこれだけ売上や利益を出せたはずだ」というものです。役員が会社の営業上重要な役割であったとしても、休業したことを理由として、営業損害分を加害者に請求することは原則できないと考えるべきです。 これは、交通事故による社内の役員1人の休業と、会社全体の損失が直接結び付くとは考えにくく、加害者が、被害者が所属する会社に、事故を原因とする損害が発生することを、予測することが難しいといった理由からです。 ただし、個人企業や小規模法人等、被害者の休業が会社の損害に大きく影響したと考えられる場合には、休業損害として営業損害が請求できる可能性があります。

会社が間接損害の賠償を請求する場合

被害者が事故に遭ったことで第三者に間接的に生じる損害のことを間接損害といいます。請求しうるのは会社です。しかし、会社と役員個人が経済的に同一の場合など極めて例外的な場合を除いて、間接損害の請求は基本的には認められません。 もっとも、次のような間接損害は反射損害とも呼ばれ、会社からの請求が認められる場合があります。

  • 治療費や生活費を支援する目的で、会社が支払った役員報酬に相当する金銭
  • 休業損害の支払いを待つ間の貸付として、会社が支払った役員報酬(満額) など

このような場合は本来加害者が支払うべき金銭を会社が立て替えたことで、役員の損害が会社に移転したと評価できます。そのように評価できる場合には、会社から加害者に賠償請求することができると考えられます。 もっとも、請求できるのは本来被害者が受け取るべき休業損害の額に限定されるので、注意が必要です。

休業期間中も報酬の減額がない場合

休業期間中も満額の役員報酬を得ていた場合、休業損害は認められない可能性が高くなります。 これは、報酬が減額されていない=休業損害が発生していないと評価される可能性が高いためです。 このような場合には、被害者となった会社役員としては、賃金センサスに基づいて休業損害を請求する方法が考えられます。 なお、本来であれば休業によって減額されるはずの役員報酬を減額せずに会社が支払っていた場合には、先に述べたように、会社は減額されるべきであった役員報酬を請求できる可能性があります。

休業損害が認められない場合

役員報酬のほとんどが「利益配当部分」の場合、基本的に、会社役員の休業損害は認められにくくなります。 利益配当部分は休業によって失われないと考えられるうえ、労務対価部分の減少もない場合もあるからです。

会社役員の休業損害の計算方法

会社役員の休業損害は、基本的には、会社員や自営業者などと同じ式を用いて計算します。

《休業損害の計算式》
休業損害額=1日あたりの基礎収入×休業日数

ただし、会社役員の場合は、「基礎収入」の考え方が会社員の場合等と異なり、報酬のうち「労務対価部分」が基礎収入となります。 休業損害の計算方法については、以下ページで詳しく解説していますのでご参考ください。

労務対価とは

労務対価とは、事故に遭った会社役員が労務に従事したことの対価として得る報酬です。 役員報酬のうち、労務対価部分の額や割合は明確に決まっていないことも多くあります。このような場合には、一般的には次に挙げる内容を考慮して判断されます。

  • 被害者である当該役員の年齢・地位・職務内容・報酬の推移
  • ほかの役員や従業員の職務内容・報酬
  • 会社の規模(同族会社か否か等)・収益・業務内容

労務対価を主張する際に必要な資料

示談交渉において、労務対価部分の額や割合が争点になることがあります。このような場合には、次のような資料を根拠に労務対価部分の額等を主張・立証していくことがあります。

  • 株主総会議事録
  • 法人事業概況説明書
  • 決裁報告書
  • 月次損益計画書 など

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会社役員が休業損害を認めてもらうためのポイント

会社役員の方の休業損害を認めてもらうための、2つのポイントをご紹介します。

●事故前の就労状況を保険会社に伝える
仕事を休んだという理由だけでは、役員の休業損害が認められない場合があります。
・事故前にどのような労務に従事していたのか
・事故によってどのようなことができなくなって、報酬にどう影響しているのか
こうした内容を、しっかりと保険会社に伝えることが大切です

●税理士による休業損害調査を受ける
税理士による休業損害調査を受けて、その結果を保険会社に提出し、休業損害が生じることを証明する方法もあります。

ケース別の休業損害

“会社役員である被害者”と一口にいっても、会社内での立場や、会社の規模や実態は多様です。 そして、それぞれの実態に応じて、休業損害の支払いについて判断される際、注目されるポイントが異なります。

小規模会社の場合

小規模会社の場合、会社役員が労務に従事していることがあります。 その役員が他の従業員以上の業務を行っている場合などは、得ている役員報酬の全額または一部を基礎収入として、休業損害が認められる可能性があります。 また、会社の仕事を実質的に役員1人でこなしている場合など、会社役員が個人事業主と同視できる場合には、個人事業主の休業損害の計算方法を用いて、事故前年度の確定申告時の所得額をもとに基礎収入を算定する方法も考えられます。 個人事業主の休業損害について、以下ページで詳しく解説していますのでご参考ください。

同族会社の場合

同族会社の場合も、休業損害が認められる可能性はあります。 家族や親族で構成されている同族会社では、役員とは名ばかりで、実際は労務に従事する割合が大きい場合もあります。 そのため、同族会社の役員であるという事情は、休業損害の請求を行う上で有利な事情といえます。 もっとも、同族会社の役員であっても、労務に従事していない役員については、労務対価部分が否定されてしまい、休業損害の請求が認められないおそれがあります。

社外監査役の場合

監査役として名前を連ねている場合、会社に対して労務を提供する場面が少ないと考えられることから、労務対価部分が認定されず、休業損害の請求が認められないおそれがあります。監査役以外にも、非常勤取締役や名目的取締役のように業務に関わらない、関わりが少ない者は利益配当部分が大きく、休業損害が認められないリスクが高くなります。

女性役員の場合

女性の役員の場合でも、例えば、会社の業務と主婦としての家事を兼業している場合、仮に役員報酬の休業損害が認められなかったとしても、主婦としての休業損害を請求できます。 また、独身の女性でも賃金センサスの全女性平均賃金を基礎収入額として休業損害が認められる可能性があります。

会社役員の休業損害が認められた裁判例

【神戸地方裁判所 令和元年10月31日判決】

株式会社の代表取締役である原告は、会社のほぼすべての業務を1人で行っていましたが、事故で治療中の間、役員報酬が減少していました。 裁判所は、会社の規模、業務内容、事故前後の利益状況や報酬額の推移などを考慮して、事故の影響が1.5ヶ月しかない年と事故で1年間治療していた年の役員報酬の差額分を休業損害として認定しました。

会社役員の休業損害は証明が難しいので弁護士に依頼することをおすすめします

会社役員の休業損害は、示談交渉において争点になりやすい項目のひとつです。 労務対価の証明や、減収がなかった場合の損害賠償請求など、複雑で専門的な知識が欠かせないため、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。 弁護士であれば、労務対価を適正に計算して、立証書類に基づいて休業損害を請求することができます。 休業損害以外にも、交通事故に遭われた役員の方が請求できる慰謝料などの損害項目について適切な額での請求や通院のアドバイスも可能です。 「休業損害を認めてもらえなかった」、「報酬の減少はないけど会社の損害を請求したい」などでお困りの方は、ぜひ一度、弁護士法人ALGにご相談ください。

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