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歩行者の過失割合|横断歩道のない道路

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

歩行者は、最も交通事故に遭いやすい「交通弱者」ですので、歩行者を保護するために、歩行者に比べて交通強者になる車両には高い注意義務が課されます。そのため、歩行者と自動車、歩行者とバイク、歩行者と自転車のいずれの事故の場合でも、歩行者に信号無視等の違法な態様がなければ車両側の過失割合が高くなります。 本記事では、横断歩道のない道路を歩いていた歩行者の過失割合について解説します。 横断歩道上を歩いていた歩行者の過失割合については、下記の記事をご覧ください。

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歩行者の過失割合は扱いが特殊

歩行者の過失割合を判断する際には、減算要素という特殊な事情が考慮されるので、過失割合が小さくなることがあります。 例えば、自動車の場合、「酒気帯び運転」や「居眠り運転」をしたときには、過失割合がプラスされる等の修正要素が働き、過失割合が大きくなることがあります。これに対して、歩行者の場合には、「商店街での事故」や「歩行者が集団だった」ときには過失割合がマイナスされる等、減算要素があれば過失割合が小さくなります。 減算要素には、「住宅・商店街での事故」「歩行者が集団である」「自動車に著しい過失がある」「自動車に重大な過失がある」といったものがあります。 以下の状況別の過失割合の説明では、減算要素については省いて説明します。なお、 本記事では、いわゆる赤本をベースとして過失割合を見ていきます。 歩行者として事故に遭い、「自分の場合には減算要素がないかな?」等、悩んでいらっしゃる方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

道路横断中の事故

道路横断中の事故における歩行者の過失割合は、道路の性質や、衝突した車が直進していたのか、右折か左折か等によっても変わります。 以下、シチュエーション別の歩行者の過失割合について、詳しく見ていきます。

幹線道路を横断した場合

幹線道路を直進する車との事故の場合、過失割合は歩行者20:自動車80になります。

幹線道路を横断中に起こった事故における基本過失割合は、歩行者20:自動車80です。

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+5

ただし、幹線道路の横断中の事故の過失割合が、常に歩行者20:自動車80になるわけではありません。歩行者の過失を増加させる事情がある場合には、修正要素とされ、歩行者の過失割合は増加します。 例えば、次のような場合、歩行者の過失割合は+5されます。

  • 夜間に横断した場合
  • 車両の進行直前や直後に横断した場合
  • 横断中立ち止まった、あるいは後退した場合
  • 横断禁止の規制がある場所を横断した場合

一般的な道路を横断した場合

幹線道路ではない、一般的な道路を直進する車との事故の場合、過失割合は歩行者20:自動車80になります。

幹線道路を直進する車との事故の場合、過失割合は歩行者20:自動車80になります。

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+5

一般的な道路を横断中の事故の場合も、歩行者の過失割合を増加させる事情があれば、修正要素となり、過失割合が増加します。 例えば、次のような場合、歩行者の過失割合は+5されます。

  • 夜間に横断した場合
  • 横断禁止の規制がある場所を横断した場合
歩行者に+10

また、次のような場合には、歩行者の過失割合は+10されます。

  • 車両の進行直前や直後に横断した場合
  • 横断中立ち止まった、あるいは後退した場合

右左折車との事故

右左折車と歩行者の事故の場合の過失割合は、事故現場の道路の性質や、歩行者が横断しようとしていたか、あるいは普通に歩いていたか等、事故形態によっても異なります。 例えば、歩行者が幹線道路を横断中、右左折車と衝突した事故の場合の基本過失割合は、歩行者10:自動車90です。 この基本過失割合にいろいろな修正要素(夜間である、横断禁止の規制がある等)が働くことによって、過失割合は増減します。 過失割合は、事故の状況によりさまざまに異なってくるため、そのすべてをここで説明することはできません。詳しくは弁護士との相談でお尋ねください。

歩道のない道路を歩いていた場合

歩道がない道路を歩いていた場合は歩行者が右側通行をしていたか左側通行をしていたかで過失割合が異なる

歩道のない道路を歩いていた歩行者と自動車の事故の場合、歩行者が道路のどちら側を歩いていたかで、基本過失割合は異なります。 ○歩行者が右側通行
歩行者0:自動車100

○歩行者が左側通行
歩行者5:自動車95
また、道路の中央部分を歩いていた場合、道路幅によって、歩行者の基本過失割合は異なってきます。

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+5

歩道のない道路を歩いていた歩行者と自動車の事故では、次のような場合に、歩行者の過失割合は+5されます。

  • 夜間に道路の中央部分を歩いていた場合
  • ふらふら歩きをしていた場合

路上に寝ていた場合

路上に寝ていた場合(路上横臥者)の基本過失割合は、路上横臥者30:自動車70です。

路上に座り込んでいる、あるいは寝ている人のことを、路上横臥者(ろじょうおうがしゃ)といいます。 通常、車両の運転手は、路上に人が寝ていることを予想していないので、路上横臥者の過失割合は高くなります。なお、発見が容易かどうかによって、基本過失割合は異なります。

○昼間で、路上横臥者を事前に車両から発見することが容易でなかった場合
路上横臥者30:自動車70
○昼間で、路上横臥者を事前に車両から発見することが容易だった場合
路上横臥者20:自動車80
○夜間の場合
路上横臥者50:自動車50

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+10

次のような場合に、路上横臥者の過失割合は+10されます。
・事故現場が幹線道路だった場合

バックする車に轢かれる事故

バックする車に轢かれた場合の基本過失割合は、車のすぐ後ろを横断したか、そうでないかで変わってきます。

バックする車のすぐ後ろを横断して衝突した場合

バックする車のすぐ後ろを横断して轢かれた場合の基本過失割合は、歩行者20:自動車80です。

バックする車のすぐ後ろを横断して轢かれた場合の基本過失割合は、歩行者20:自動車80です。

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+5

バックする車に轢かれた場合も、歩行者の過失割合を増加させる事情があれば、修正要素として、過失割合が増加します。 次のような場合に、歩行者の過失割合は+5されます。

  • 夜間に横断した場合
  • 事故現場が歩車道の区別のある道路だった場合
歩行者に+10

また、次のような場合に、歩行者の過失割合は+10されます。
・車がバックするときに、バックブザー等で後退することを注意していた場合

車と距離があった場合

バックする車のすぐ後ろ以外を横断して轢かれた場合の基本過失割合は、歩行者5:自動車95です。

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+10

次のような場合には、歩行者の過失割合は+10されます。

  • 事故現場が歩車道の区別のある道路だった場合
  • 車がバックするときに、バックブザー等で後退することを注意していた場合

高速道路上の歩行者の過失割合

高速道路上に歩行者がいることは、通常想定できないため、高速道路上で事故に遭った歩行者の過失割合は高くなります。 具体的なケースごとに、詳しい過失割合を見ていきます。

高速道路に侵入した歩行者の場合

高速道路にみだりに立ち入り、又は自動車やバイク等以外の方法により通行してはならないと法律で定められています。したがって、高速道路上に歩行者がいることは法律上予定されていないといえます。そのため、高速道路に侵入した歩行者が事故に遭った場合の基本過失割合は、歩行者の過失が非常に大きくなり、歩行者80:自動車20とされます。 ちなみに、歩行者の基本過失割合が大きいため、原則として加算修正はされません。

事故・故障等で車から離れた人の場合

高速道路上に歩行者がいることは、法律上予定されていないことは、説明したとおりです。しかし、高速道路上に駐車している車両がある場合、非常装置を設置するために、駐車車両の付近(おおよそ10m以内)に人がいることが多く、また、自動車の運転者も容易に人がいることを確認できるため、過失割合は、歩行者に有利に考えられます。 具体的には、歩行者50:自動車50となります。

この事故の場合に適用される過失割合の修正要素

歩行者に+10

高速道路上で、事故・故障等のために車から離れた際に事故に遭った場合も、歩行者の過失割合を増加させる事情があれば、修正要素として、過失割合が増加します。 次のような場合に、歩行者の過失割合は+10されます。
・交通量が多かった場合

歩行者に+20

また、次のような場合に、歩行者の過失割合は+10~+20されます。

  • 夜間・降雨等のため、歩行者を視認することが難しかった場合
  • 自動車が接近しているにもかかわらず、歩行者がその直前を横断した場合

自転車と歩行者の事故

自転車は、歩行者に次ぐ交通弱者です。しかし、歩行者に対しては、自転車の運転上強い注意義務を負い、その過失割合は歩行者に比べて大きくなります。 自転車と歩行者の事故の場合の基本過失割合も、細かく定められており、具体的な状況により、さらに細かく修正されます。 詳しく知りたい方は、ぜひ弁護士にお尋ねください。

歩行者の過失割合の方が高くなった裁判例

ここで、自動車の過失割合より歩行者の過失割合が高くなった裁判例を2つご紹介します。

【横浜地方裁判所 平成23年11月1日判決】

<事案の概要>

深夜に徒歩で横断禁止の規制のある国道を横断していた被害者が、国道を走行してきた被告タクシーにはねられて死亡した事例です。

<裁判所の判断>

裁判所は、まず、①横断禁止規制があり、そのことを標識等により認識できたこと、②片側2車線の幹線道路で4車線の車道の幅員が14.2mであること、③横断歩道橋の付近といえること、④歩車道がガードレールで区切られていることといった事情を考慮し、事故現場は交差点であるものの、走行する車両に、本件道路を横断する歩行者がいることを予想して走行する一般的注意義務は認められないことから、基本過失割合を歩行者30:自動車70としました。 そして、(1)事故当時は深夜で、かつ歩行者が全身黒い服装をしていたため、歩行者を発見できた地点からでは自動車が回避措置をとる余裕がないこと、(2)歩行者が、道路幅が広く横断禁止規制のある幹線道路を、付近に利用可能な横断歩道橋が設置されていたにもかかわらずあえて規制に違反して横断したこと、(3)自動車のライトを認めて走行してくる車両があることを確認して回避するのが容易であるにもかかわらず、高度に酩酊し、横断中に立ち止まる等適切な回避措置の取れない状態であったことが本件事故の一因となっていると認められること等の事情を修正要素として、最終的な過失割合を、歩行者60:自動車40としました。 歩行者である被害者の過失が6割と認められ、車両運転者の過失を上回った裁判例です。

【京都地方裁判所 平成27年12月21日判決】

<事案の概要>

黄信号で交差点に進入した自動車が、横断歩道上を赤信号で歩行していた歩行者に衝突し、歩行者が死亡した事例です。

<裁判所の判断>

本事例では、考え事をしていたため、前方左右を注視し、横断歩道上の歩行者の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務を怠り交差点に進入したという自動車運転者の過失を認めるとともに、歩行者の過失として、信号表示を無視して、通常の道路よりも自動車の動静に注意すべきである幹線道路を、安全確認不十分のまま横断歩行した過失を認めました。 そして、過失内容や過失の程度を総合考慮し、歩行者55:自動車45の過失割合が相当であると判断しました。 こちらも、歩行者である被害者の過失が5.5割と認められ、車両運転者の過失を上回った裁判例です。

歩行者の方が事故に遭われた場合は弁護士にご相談ください

ここまで説明してきた歩行者の過失割合ですが、最初にお伝えしたとおり、歩行者特有の過失割合の減算要素については触れていません。このことからもおわかりいただけるかと思いますが、歩行者の事故は、非常にややこしく揉めやすいものであるといえます。 保険会社の提示してきた過失割合は本当に妥当なのか、自分に有利な事情、修正要素や減算要素が見落とされていないか等、被害者の方おひとりで判断するのは難しいといわざるを得ないでしょう。適切な過失割合が認められるようにするためにも、交通事故についての知識が豊富な弁護士にご相談ください。

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